15 / 25

恋に落ちた“いじめっ子”④

 まるで春風を思わせるかのような、暖かくて優しい声で、怜央先輩が囁いた。 「悠馬、好きだよ……?」    悠馬先輩は驚いていなかった。  でも、それも不思議なことじゃない気がした。  この期に及んで、二人が“相思相愛”であることはお互いに分かっていただろうし、僕の目から見ても明らかだった。  抱え切れない感動の余韻を吐き出すように、ひとつだけ溜息をついて、悠馬先輩は怜央先輩に返した。 「俺も……怜央のことが……好きだ……?」  それから「フフッ」と笑うと、悠馬先輩は冗談めかして、だけど恨めしそうに続けた。 「それにしても……お尻の穴に向かって『好きだよ』って言うなんて、最低の告白だな……?」 「でも――」  空かさず、怜央先輩が言い返した。 「その最低の告白を、悠馬のお尻の穴は受け止めてくれたんだろ……?」 「や、やあっ!?」  悠馬先輩が悲鳴を上げた。  歓びに満ちた、弾むような悲鳴だった。 「そんな言い方されると……恥ずかしい……?」  そう訴える悠馬先輩を、怜央先輩が穏やかに嗜める。 「これくらいで、恥ずかしがっちゃダメだぞ……?」 「え……?」 「だって、俺はまだまだ物足りないから……?」 「物足りないって、何が……?」 「悠馬の可愛いお尻の穴に、もっともっと俺の愛を刻み込みたい……?」 「やあ、やあぁっ! あっ、やあ――ぁッ!」    悠馬先輩が、またも歓びに溢れた悲鳴を二度上げた。   一度目は、怜央先輩に「俺の愛を刻み込みたい」って囁かれた瞬間で、二度目は怜央先輩が、悠馬先輩のお尻を両手で引き裂いた瞬間だった。 「好きだよ、悠馬……悠馬のこと、愛してる……」  剥き出しになった悠馬先輩のお尻の穴に、愛の言葉を何度も囁きながら、怜央先輩はゆっくりと唇を近づけていく。 「俺も……怜央のこと、好きだよ……?」  しばらくすると、あたかも返礼のように、悠馬先輩も愛の言葉を怜央先輩に贈る。 「悠馬、愛してるよ……?」 「俺も怜央のこと、愛してる……?」 「好きだよ、悠馬……?」 「愛してる……怜央、愛してる……?」  そんな感じで、お互いに愛の言葉を捧げ合っているうちに、とうとう怜央先輩の唇が、悠馬先輩のお尻の穴に重なった。    その瞬間、悠馬先輩は突き出したお尻を微かに震わせた。  一方の怜央先輩は静かに、束の間の時間が経つのを待った。  やがて、尖らせた唇で吸い付くような音が悠馬先輩のお尻の割れ目で弾けて、体育倉庫に響くようになった。 ――チュッ、チュッ、チュッ……――  よく見てみると、悠馬先輩のお尻の割れ目に埋めた怜央先輩の頭が、前後に揺れている。  そのうちに、悠馬先輩のお尻の穴から聞こえてくる弾けるような音に、悠馬先輩の甘い声が重なった。 ――チュッ――「あっ……」 ――チュッ――「あっ……」  ――チュッ――「あんっ……」  その時、怜央先輩が悠馬先輩のお尻の穴に重ねたままの唇で、囁いた。 「悠馬のお尻の穴は、もう俺のものだ……?」  悠馬先輩も今さら異存はないようだった。 「ああ、俺のお尻の穴を、怜央に捧げるよ……?」  怜央先輩がまたひとつ、悠馬先輩のお尻の穴にキスをした。 ――チュッ――「あん…」  と、そこで怜央先輩は腰を上げると、悠馬先輩に何か耳打ちした。  いったい何を言ったのか、僕には聞こえなかったけれど、悠馬先輩は「フフッ」と笑って、おもむろにこちらを向いた。  何か企んでいるんだろう。  悠馬先輩はニヤニヤ笑いながら、ハードルの狭間で直立している僕と向き合うように立つと、怜央先輩はその背中に寄り添った。  悠馬先輩の右の肩越しに、怜央先輩が僕に言った。 「伊織……お前も分かってると想うけど、悠馬は俺の恋人なんだ。だから、俺以外の男子が、悠馬のことをイヤらしい目で見るのは、俺は絶対に許さない……」     怜央先輩の言わんとすることが、僕は咄嗟には理解できなかった。  ただ闇雲に不安だけを煽られる僕を尻目に、怜央先輩は浅井先生に言った。 「先生……俺、これから悠馬の乳首を可愛がってみるけど、もしも感じている悠馬を見て伊織がチ×ポを勃てたら、罰として伊織に浣腸してください……」  ようやく、僕は怜央先輩の目論見を理解した。  しばらくは“蚊帳の外”だった浅井先生も、同じみたいだった。        浅井先生は僕の後ろに回ると、浣腸液の入ったブリキのバケツを跨ぐようにして、僕の背中に寄り添った。          ♫ ♫ ♫  浅井先生の“悪ふざけ”をきっかけに、それまでの“友情”を瞬く間に“愛”に育て上げた怜央先輩と悠馬先輩だ。  今や二人は完全に「恋人」で、二人だけの甘い時間を楽しんでいる。  だけど、今が浅井先生による「指導」の最中でもあるということも、二人は忘れてはいないらしい。  寧ろ、お互いに夢中になっていく二人を前に、自分の置かれている状況を忘れていたのは、僕のほうだった。  怜央先輩の目論見は、そんな僕を一気に現実に引き戻した。  たとえ「恋人」であっても、二人はやっぱり“いじめっ子”で、僕は“いじめられっ子”という辛い現実だ。  

ともだちにシェアしよう!