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 レオネと目が合う。「えっ?」と言って、フリーズした。きょとんとしているレオネを見て、口の端で笑う。 「フォルムラ語でしょ、これ」  カルテに書かれた数字を指さしながら言う。レオネは少しの間目を瞬かせていた。 「わかるのかい?」 「わかるよ、あの怪しいリミシュ語以外は」  うふふと笑うと、レオネが恥ずかしそうに俯いて、片手で顔を覆った。肌が白いからか、赤くなるとすぐにわかる。本当におもしろそうなオモチャだ。 「ノルマ語を理解しているイル・セーラがいるとは聞いていたが、まさかきみだったとは」  言って、レオネが顔をあげる。揶揄ったのに、怒るどころか声をかけてきた。 「リミシュ語はどう発音をすれば、よりネイティブに近くなるのか、教えてもらえないかな?」  今度はユーリがきょとんとする。 「え、普通におれを呼んで、通訳させればいいじゃん。奴隷の言葉なんて覚える必要ある?」  そのかわりなにかおやつ持ってきてと、何食わぬ顔で告げる。レオネは穏やかそうな眉を少し下げて、小さく首を横に振った。 「世間ではそういう扱いでも、きみたちイル・セーラは奴隷ではないよ。ちゃんと生きている、ぼくたちとおなじ人間だ。きちんと言葉を交わすのは、あたりまえのことだと思う」  ふうんと、他意なく答える。そんなふうに思ったことがなかったからだ。ユーリはまだ15歳だが、人生の半分以上を収容所で過ごしている。このなかでの概念と、考え方しか知らない。外の世界には、変わった考えをする人がいるものだなと思い、レオネを眺める。 「おなか痛いの、あんたの顔見たら治った」  しれっと言って、レオネの首に腕を絡める。 「ねえ、おれのこと買わない? 買ってくれたら、そのときに教えてあげる」  冗談めかしているが、わりと本気だ。収容所の在り方が変わったとはいえ、ゲストたちの横暴さが変わったわけではない。変なゲストに買われて面倒な思いをするよりは、こういうのに抱かれたほうが楽そうだからだ。  レオネは言われている意味が分からないのか、きょとんとしている。 「買う、とは?」 「ここがどういうところか知ってる? C区は基本的に強制労働者か性奴隷しかいない。俺は性奴隷ね。だから度々あんたたち国医の世話になる」  レオネの瞬きが止まった。またフリーズしている。首に絡めた腕を片方はずし、目の前でひらひらと手を振って見せた。 「知らないで来たの?」  レオネが口元を手で覆った。ぼそりとなにかを言う。いまの言語はノルマ語でも、フォルムラ語でもない。聞いたことがないアクセントと音だ。短かったからよく分析できなかった。いまだにフリーズしているレオネの首から手を離して、ユーリはカルテが挟まったレザー調のポートフォリオをぽいとテーブルの上に放り投げた。 「えっ、ちょっと」  慌てるレオネを無視して、上質な革でできたベルトを寛げる。上流階級や貴族もよく来るが、その人たちが纏っているものと遜色ないほどの高級そうなベルトだ。バックルもメッキではなくシルバーだし、細かな模様が彫られたおしゃれなものだ。柔らかく、しなやかなそれを外して、ズボンのトップボタンを外す。かなりなめらかで、且つエレメント同士がしっかりと嚙み合っているファスナーのスライダーを滑らせ、下ろしていく。  こんなところにも香水をつけているのか、と思うほどに上質な香を沁み込ませたようなにおいがする。質のいい下着を掻き分け、反応もしていないものを露出させようとしたところで、ようやくレオネがヘンな声を上げた。 「な、なにを」 「さっきの言語、教えて」  「これ、対価ね」と、下着の中からまだ柔らかいものを露出させ、ためらいなく咥える。頭上から息を飲むのが聞こえた。

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