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04★
「ちょっと、待って」
声が上ずっている。まさか未経験か? と思いつつ、先端をべろりと舐めて唇で亀頭を覆う。少し食むようにして根元をやわやわと軽く揉んだら、すぐにそれが少し硬度を増した。
チョロいなと口の中で笑う。たったそれだけの刺激だというのに、また上から気持ちよさそうな息遣いが聞こえてきた。一旦弄んでいた亀頭を解放する。両手で口元を押さえて、ふうふうと息を荒らげているレオネを上目遣いに見上げて、ふふんと笑う。
「リミシュ語ってね、こうやって発音するんだよ」
ぐぷりと亀頭を咥え込み、『お人好しのおもしろいお兄さん』とそのままリミシュ語でしゃべってやる。リミシュ語は唇と舌を使った発音が多い。舌先を上下の前歯の間にはさむようにして、息を強く、または弱く出すようにして発音する文字列を敢えて使う。唇で亀頭全体を強く挟むようにしたからか、どんどん硬度が増してくる。とろりと先走りが溢れてくる。ほんとうにチョロい。大体の奴は喉の奥まで突っ込んでくるし、これだけでイカせられるなら本当に楽だ。
明らかに行為になれていないのであろうそこを、熱い舌で弄ぶ。射精を促すように根元と、双球を指で同時に触れながらぬちゅぬちゅと音を立てていると、頭上から呻くような声がした。反応でわかる。口の中にあるそれがびくびくと痙攣しながら、どぷりと精液が飛び出した。さっき部屋の中を視線だけで観察したが、手の届く範囲に紙はなかった。さすがにカルテを使うわけにはいかないしと、尿管に溜まったものもずるずると吸い取る。根元を扱きながらそうしたせいなのか、切なげな呻き声がしたかと思うとまた2,3度断続的に射精した。
ぽんとわざと音を立てるようにして、それを解放する。上目遣いに見ると、顔を真っ赤にさせて、ふうふうと息を荒らげているのが見える。ユーリが口をもごもごさせていたからなのか、レオネが慌てたようにあたりを見回した。なにもないからなのか、両手を合わせてユーリの口元に突き出してくる。
「こ、ここに、ぺってして」
きょとんとする。そんなことを要求するなんざ、よほどの変態か無自覚しかいない。そも、こいつはゲストでもないし、口の中のものを人の手に出すなんて、行儀が悪い。そのままごくんと飲み込んだら、レオネが慌てたようにユーリの両肩を掴んだ。
「だ、ダメだよ、そんなことをしたらっ」
いつもは完全に酩酊状態にされているから、自分がなにをされているのかもおぼろげにしか覚えていないけれど、自分からほぼしらふの状態でここまでしたのは初めてだ。うえっと嫌な顔をする。あまり美味しいものじゃない。
そういえば、部屋に入ってきたときに甘くていい香りがしていた。デスクのほうを見ると、高級そうなお皿の上に、見たこともないおかしが乗っているのが見えた。目を輝かしたユーリをよそに、レオネがあたふたとなにかを言っているのが聞こえるが、無視だ。
「ねえ、あれちょうだい」
「えっ!?」
デスクの上に置かれているおかしを指さす。レオネの返事も待たず、ユーリはソファーから降りてデスクのほうへと歩いていく。デスク上にやわらかそうな紙があるのに気付いて、それをまだ状況がよくつかめていないレオネの元に持っていく。「はい」とそれを突き出したら、レオネはきょとんとしたままそれを受け取った。「ありがとう」と、よくわかっていない様子で言う。
「それ、おれがしまってあげたほうがいい?」
レオネのまだ少し硬度があるものを指さしながら。レオネはハッとしたような顔をして、慌ててそれを紙で拭った。いそいそとしまうのを横目に、またデスクに向かう。
お皿に盛りつけられたそれは、見るからに美味しそうなかおりを漂わせている。きつね色に焼けた、薄い生地が何層にも重なったものに粉砂糖が振りかけられている。中に入っているのはリンゴだろうか。
「ねえ」とレオネを呼ぶと、レオネは自分のものを拭った紙をくしゃくしゃと丸め、デスクの横のダストボックスにかなりの間をおいてぽとりと落とした。
「あんたが呼び出すから、夕ごはん食べ損ねた。食べていい?」
明らかにぼんやりしていて、言われていることが理解できないという顔をしている。「夕ごはん」とぽつりと言ったかと思うと、慌てたように早足でこちらにやってきた。
「ごめん、食事時だったとは知らなかったんだ」
レオネが言い終えるよりも早く、腹の虫が鳴く。そういえば、今日は朝も食べ損ねた。昨日のゲストがあまりにもしつこかったうえに、腹痛騒動で睡眠時間が大幅に削られた。レオネは時計を見上げ、ぎょっとした。
「まだ16時だよ?」
「そうだよ。日勤の看守が帰る前に、夕ごはん」
「夜勤の人は見回りか、ゲストの要求を聞いたりしかしないよ」と告げる。露出した肩口を両手で触られた。「だからこんなにも細いのか」と誰に言うともなく言った。またあの言語でなにかを呟くのを聞いて、ユーリはにいっと口元を持ち上げる。
「さっきのは、その言語を教えてくれる対価。このおやつは、おれが夕ごはんを食べ損ねた見返りね」
言ったあとで、まだ食べていいと言われていないことに気付く。もう一度指さして「食べていい?」と尋ねたら、レオネは「どうぞ」と嫌な顔をすることなく言った。
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