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自分たちの牢に戻ったら、サシャが意想外な顔をした。「バレたわけじゃなかったんだな」と自分たちだけにわかる言語で話しかけてくる。ユーリは頷いて、帰り際に渡された紙包みをサシャに手渡した。
「なんか、いろいろ聞かれて、これくれた」
紙包みの中にあるのはアップルパイだ。サシャのも頂戴と言おうとするよりも早く、サシャの分も手渡してきた。確認していた書類にきょうだいがいると書かれていたのだろうかと思案しつつ、綺麗に整えられた髪――前髪を一束触った。
――「気になったのだけど、なぜ髪がそんなにぼさぼさなんだい?」
そう尋ねられて、ユーリはきょとんとした。いつものことだ。おかしいと思ったことはあるけれど、抵抗したところで相手は刃物を持っているから、抵抗しない。どうせそのうちに伸びるし、自分が殺されずに済むのなら、別に構わないとすら思っている。
この国は元々、イル・セーラが築いた旧王朝をノルマ族が滅ぼし、支配している国だ。だから自分たちイル・セーラは奴隷だと聞かさせている。その旧王朝を滅ぼしたときの縁起担ぎで、紛争や暴動鎮圧のために戦地に赴く際はイル・セーラの髪を持っていく。昔は目を抉って持って行っていたと聞いて、サシャともども震えあがったけれど、それを言うときっとレオはいい顔をしないだろう。
そう感じて、看守たちや、軍隊の人たちが戦地に赴く際に髪を切られるとざっくりと説明をした。そうしたら、レオはまたどこか神妙な顔をして、部屋を出ようとしたユーリを呼び留めた。なにをされるのかと思ったら、長さがバラバラでみすぼらしかった髪を、きちんと切りそろえて整えてくれたのだ。それも、戦地に赴く人たちには、レオが切りそろえてくれた髪の残骸を手渡すようにすると言っていた。暫くの間、あの妙な緊張感を味わわなくていいと考えるとラッキーだけれど、髪を切られるだけではない。それは言わなかった。
「髪を切ってもらったのか?」
「そう。おもしろいお兄さんだった」
新しい国医らしいよと告げる。サシャは「ふうん」とあまり興味なさげに言って、ユーリが先ほどまで食べていたリゾットが入ったトレイをこちらに突き出した。
それを受け取り、リゾットを木製のスプーンですくおうとしたが、もったりとしていて、すくいにくい。
「食べ損ねるよりいいか」
もちもちのリゾットを少しずつ口に運ぶ。サシャもまた、ユーリが渡した紙包みを開いて、不思議そうに目を瞬かせた。
「これ、なんだっけ」
「アップルパイだって」
サシャが「ああ」と声を出した。どうやらサシャは食べたことがあるらしい。看守に見つかると面倒だからか、上品そうな見た目とは裏腹に、豪快にかぶりつく。相変わらず一口がデカい。だからサシャの「一口ちょうだい」には応じないようにしている。咀嚼しながら少し目を伏せるのを見て、気に入ったなと感じる。
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