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 あのあと、レオは牢の中の環境等々細かく見回って、あからさまに嫌そうな顔をしている看守と共に医務室がある別棟へと戻って行った。  強制労働に行っていたエドたちがホースで水浴びをして戻ってきた際に遭遇したと言っていたが、その件に関しても怪訝な顔をされたそうだ。「看守によるけれど、ちゃんと石鹸をくれる人もいるし、冬場じゃないし、べつに目くじらを立てるほどのことでもなくないか?」と、逆に不審そうにしていた。  自分よりも年齢が上のイル・セーラたちは、そう感じるのかと思う。自分の中にはない感覚や概念に驚いているだけのように見えるし、かと言って自分のその感覚をこちらに押し付けてこようとする厚かましさはない。ただ、看守たちにとっては別だろう。  エドとサシャがなにかを話している。壁際でぼそぼそと話しているから内容は聞こえないが、エドの視線がこちらに向いているのに気付く。レオのことを言われているのではないかと思ったが、敢えて取り合わない。木箱を並べて作った簡易のベッドにごろりと横になり、目を閉じた。  サシャの勘はよく当たる。言うことを聞いていたほうが無難なことが多い。ただ、ドン・フォンターナに囲われているサシャはともかくとして、自分は面倒な相手に目を付けられることもあるし、いつか薬の影響で死ぬんじゃないかと思ったことも何度もある。  この間だって、看守たちからSig.フィオーレと呼ばれている診療医が担当の日じゃなければ、ひどい目に遭っていた。ぼんやりしながら考えていると、身体を揺らされた。この手はエドだ。ユーリが狸寝入りをしているのに気付いているらしい。 「ユーリ、おもしろそうな人を見つけて楽しそうなのはなによりだけれど、気をつけろよ」  ポンポンと腰を叩かれる。サシャとは違って、否定的ではないらしい。ごそごそと体を起こして木箱のベッドに座り直す。エドは朗らかに笑って、ユーリの隣に腰を下ろした。  エドは同郷のイル・セーラだ。自分たちとおなじ、白銀の髪にラピスラズリのように深みのある穏やかな海のような青とアイスブルーの独特なダイクロイックアイを持つ。サシャよりもいくつも年上で、もう一人の同郷のイル・セーラとよく一緒にいる。そのイル・セーラはフォルスでも珍しく、白銀の髪にルビーのような赤い目をしていて、体格がいいことから大体強制労働を強いられているようだ。 「エドは楽観的なんだ。もしユーリになにかあったら、どうしてくれるんだ」  不満げな表情で、サシャ。エドを恨めしそうに見据える様を見て、エドが楽しそうに笑った。

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