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夜、みんなが寝静まったころに、息苦しさと不快感で目が醒めた。ぼんやりとする視界の中で目を開ける。目の前に誰かがいることに気付いた。声を出そうとすると口元を強い力で塞がれた。
暗くてよく見えないが、独特な煙草のにおいと、不機嫌のにおい。いつもは香のにおいなど牢の中に漂っていないけれど、不自然なかおりが充満しているようだ。
男が舌打ちをしたのがはっきりと聞こえる。体の違和感がなにかに気付く。男の指が後ろに潜り込んでいる。馴染ませるというよりは入れる場所を確保するように乱暴に指を動かされ、引き攣った声が上がった。
隣にはサシャがいる。はっきりとした舌打ちの音で起きないということは、この香は軽い睡眠作用のあるものだ。みんな強制労働で疲れているし、サシャは少し風邪気味だからと、エドが煎じた薬を飲んだ。乱暴に指を引き抜かれたかと思うと、強く腕を引っ張られた。体が浮く。男はユーリを簡単に肩に担ぎ上げると、サシャが眠っているのを見下ろして喉の奥で笑うのが聞こえた。
「肝心な時に“お兄ちゃん”はいつも助けてくれないな」
かわいそうにと、男が言う。こういう時には抵抗しないに限る。どうせ目的はひとつだ。乱暴にされて痛い思いをするより、大人しくしておいたほうが身のためだと悟る。
その男――マテウスはユーリを抱えたまま医務室に連れて行った。牢を出て、医務室がある棟側から鍵をかける。脱走防止以外に意味があることを悟り、この男の性格の悪さに嫌気がさした。
夜勤の看守は3人。A区、B区、C区それぞれを、3時間ごとに別の看守が見回りをする。看守が奴隷に暴行を働くことを防止するために、そう義務付けられた。でも、マテウスは賄賂かなにかでB区からC区を経由して医務室側に来れないようにしたのだ。医務室はA区にもあるし、口裏を合わせておけば、A区かB区で体調不良者が出た時にはA区の医務室を使うように指示ができる。
思ったとおり、医務室の鍵を開け、マテウスがその中に入った。内鍵をかけ、夜目が効くのかユーリを抱えたまま診療用のベッドへと向かう。その前までやってきたとき、ぐるんと体が反転し、背中から勢いよくベッドに叩きつけられた。衝撃で息が詰まる。ぐっと変な声が出たかと思うと、マテウスがユーリの服の裾を勢いよくたくしあげた。破られると替えをもらうまで裸で過ごす羽目になる。それもあるが、いつもの不機嫌さのにおいではない。それよりも、もっと異質な雰囲気を悟り、肌が粟立つのを感じた。
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