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 これはまずいと、なにかが警鐘を鳴らす。ただの嫌がらせでも、機嫌が悪いが故のストレス解消ではない。明らかににおいが違っていた。  なにが違うかと言われたらわからないが、普段吸っている煙草に混じって嗅ぎなれないにおいがする。そのにおいには覚えがないが、胃の奥からぐっと不快感がせり上がってくるような、そして喉が詰まるようなその感覚にだけは覚えがある。ユーリの背中――右側の肩甲骨付近から腰骨に掛けて大きなやけどの痕があるが、それを付けた男が残していった感覚に酷似している。  ユーリの胸倉を掴んだまま、マテウスが血走った眼に憎悪を塗れさせて睨みつけてくる。でも憎悪だけでなく、あからさますぎるまでの欲が孕んでいることに気付く。やっぱり、今日は最初からこれが目的だったようだ。まさか牢の仲間全員を強制的にオトしてから事に及ぶとは思いもよらなかった。  冷静に考える。それは仲間を人質にして、大人しくしていれば誰も殺さないという脅しなのか。それとも、この状況下を作ったとしても“責められない”バックがいるか。或いは両方ということも考えられる。  胸倉を掴まれたまま、無理やり足を開かされた。その間にマテウスの指が潜り込んでくる。びりっとした痛みのほかに、いやな痺れのような感覚がした。時々やって来る、嫌な診療医がよく使う媚薬だ。あいつは診療と称してゲストに抱かれたユーリや仲間を嬲るのが趣味みたいなもので、倍疲れるからマジで来んなと顔を見るたびに思う。  エドがさっき言っていたように、今日は本当に国医も診療医も常駐していないようだ。暗くて時計が見えないけれど、この部屋が開いているということがそれを物語っている。  収容所のトップが代わった際に、国医や診療医がいない状況を連日作らないようにとされているはずだが、昨日いなかったのに今日いないということは、きっとマテウスと取引でもしたのだろう。  興奮したように息を荒らげ、片手で簡易式のベルトのバックルと制服のズボンのトップボタンを外す。既にかたくなっているそれを口元に押し付けられ、ユーリは冷めた表情でそれを口の中に迎え入れた。  夜勤者は翌日の昼前までの性奴隷の予定を知っている。それなのに仕掛けてくるということは、よほど業腹なのか、次の相手が息の掛かった相手か。となると、明日のゲストはこの間違法薬物を摂取させてきた、あいつかもしれない。2か月出禁を食らっていたはずだが、出禁が解けたか、それこそ取引をしたか。  めんどくせえと心の中で毒づきながら、マテウスが腰を振るのに合わせて口を窄めてとっととイカせてやろうと画策する。後頭部に手がかかったかと思うと、綺麗に整えられたそこを鷲掴みにされて、喉を突くような勢いでマテウスのものが入ってきた。

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