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「このガキにどんな価値があるっていうんだ? 薄汚い奴隷なんぞ、皆殺しにすればいい」  どすどすと音がするほど強く腰を叩きつけられる。 「ではそれを貴方の意見として上にお伝えしてもよろしいのですね?」  マテウスの舌打ちがはっきりと聞こえた。乱暴に体を引き寄せられ、ガツンと奥を突かれる。詰まったような声が上がるのを嘲笑う声がしたあとで、またぐっと首元を押さえつけられた。 「知らねえようだから教えてやる。こいつはこうしてやったほうが一番良く鳴く」  首を絞められたまま激しくゆすられるせいで、否が応でも声にならない声が漏れる。苦しくてローブの裾を掴んで助けを求めても、その人は助けてくれるどころか、白けたような息を吐いた。 「ほら、鳴けよクソガキ」  興奮に上擦った卑劣極まりない声がする。喉が詰まって声が出せるわけもない。ぐうっと喉が鳴るまで押さえつけられ、パッと手を離される。反動で肺に息が入る感覚すら苦しい。生理的に零れる涙が逆流して咳き込みそうになる。  無意識にサシャの名前を呼ぶ。上からせせら笑いが聞こえた。  首を絞めては離す動作を何度も繰り返され、息が詰まる。首を絞めるマテウスの手を振りほどこうと腕を掴んだけれど、まったく敵わない。 「サシャ」  逃げたいのに逃げられない。苦しさから逃れようとマテウスの腕を掴みながらサシャを呼んだ。 「ほら、そんな声じゃお兄ちゃんは起きないぞ」  もう一度喉を締め付けられる。骨を折られるんじゃないかと思うほどに押さえ込まれ、嘔気きそうになったとき、ふっと喉を締め付ける手が離れた。息を吸いこむ音が妙だ。何度も喉を締められたせいで気道がつぶれたのではないかと思うほどに息が吸えない。 「サシャ、助けてっ」  ここにはいないと分かっているけれど、サシャを呼ぶ。悪魔のような笑い声が響く。また喉元を締め付けられた。 「いい声で鳴くだろう。俺はこれを聞くのが堪らなく好きなんだ」  ガキの悲鳴ほどいいものはないと、マテウスが言う。すぐに喉元を解放されたが、満足に息ができないせいで胸の奥から喘鳴がする。マテウスがまたユーリの喉を締めようとした時、また急に光が差した。眩しさに眉を顰めるが、頭もとにいる人の手で目元を覆われているせいで、さっきほどの強い刺激はない。ゲホゲホと咳き込むユーリのなかにまたマテウスの熱が広がる。恍惚とした声がして、すべてを中に塗り付けるように動かしたあとで、その熱がずるりと抜き去られた。 「待ってましたよ、旦那。時間外にこいつを連れ出すには割と手数料が必要なんですよ」  声色だけでニヤついているのが分かる。もう一人の相手の声を聞くよりも早く、頭もとにいる男がユーリの目元を隠したままでなにかを呟いた。薬の効果のせいか、それとも息苦しさのせいか、ふわりと体が浮くような不快な感覚のあと、目の前が暗転した。

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