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ひどい痛みで目が醒めた。息苦しさと、暴行を受けた時特有の痛みが残っている。寝かされている場所には覚えがある。医務室だ。ユーリが呻いたからか、誰かが近付いてくる足音がした。
「気が付いたか」
ホッとしたような声だ。ユーリはその人物のほうへは視線を向けず、あからさまな舌打ちをした。この男は国医だが、自分たちとおなじイル・セーラだ。赤みがかった茶色の髪に、赤い目をした男――ユリウスは、国医だからという理由で収監されていない。
おかしな話だと思う。エドの父親のクロードだって国医だった。それに、自分の父親である“ユーリ”もそうだ。収容所に収監される数日前、ユーリは自分の父親から名前と多くの秘密を引き継いで、どこかに逃げる算段をしていたけれど、結局捕まって収監された。
まだ小さかったからはっきりとは覚えていない。でも、この男がやってきたときにはなぜか、その時のことを少し思い出して、不快な気分になる。
「いってぇ」
腹も、背中も痛む。相当派手にやられたなと内心しながらも、自分の呼吸がいまだやや荒いことに気付く。肺が痛い。ここに連れてこられて間もないのか、そうでなければ何度も首を絞められていたか。ほとんど記憶がない。ただ、尻と腹の奥の不快感で、相当長い間犯されていたのが分かる。
「彼には口答えをするなと言っただろう」
心配そうな声色で、ユリウスが言う。ユーリはなにも答えなかった。口答えをしたつもりはない。あれが口答えだというのなら、本気で罵倒したらなにをされるのだろうかと身震いする。
「今日はここで寝ていていい。看守たちには許可を取った。それから、首元の痣が消えるまで、おまえはA区に移動だ」
「マジ?」
A区と言われて、ユーリは思いきり嫌な顔をした。A区には常に死臭が漂っている。A区の建物の奥――レンガ造りになっている小さな小屋は、死んだ奴隷の遺体を置く場所だ。強制労働組が早く穴を掘らなければ、そこの遺体はどんどん腐乱していく。想像しただけで吐き気を催す。胃の奥がぐっと掴まれたような不快感に見舞われ、ユーリは不快さと苛立ちとを呼吸とともに吐き出した。
「A区ならマテウスはやってこないが、別のことも懸念される。あそこにいる強制労働者たちはフォルス出身者でも、周辺住民たちでもない。下手なことをするとマワされかねないから、口答えをしないこと」
「じゃあC区に戻してくれればいい」
「それはダメだ。サシャからドン・フォンターナになにが伝わるかが分からない」
暗に首の痣のことを言われているのだと分かった。看守が奴隷に暴行を働くのを、この男は見て見ぬふりをしている。それも気に入らないし、サシャがドン・フォンターナにそれを伝えたからと言って、なにかが動くわけでもない。もしそれでなにかが変わっているのだとしたら、収容所など既に解放されているのではないか。
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