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 体を起こそうとしたけれど、ずきんとあちこちに痛みが走る。思わずいてえと声を上げたら、ユリウスが溜息を吐いた。 「あとで食事を持ってくる。なにか食べたいものは?」  言われて、ユーリは口元を触った。口の端に痛みが走る。唇や口の中がところどころ切れている。こんなので食べられるものなんて、あるわけがない。 「新手の拷問かよ」  医者なら状況見て物を言えとバッサリ切り捨てる。「そういうところが目を付けられる原因なんだ」と、ユリウスから鋭い声で指摘された。  ユリウスはそれからなにも言わなかった。診療医や国医たちの仕事は、奴隷の体調やその日の生存率数などを記録する作業から始まる。ただ、ユーリやほかのイル・セーラがマテウスをはじめとする威圧的で暴力的な看守に暴行されていた場合、まずその隠ぺい工作と治療が仕事始めだ。だから場合によっては大幅に時間がかかるせいで、大体その日の診療医や国医は機嫌が悪い。例外なのは、ときどきやってくるSig.フィオーレくらいだろうか。あの人は自分の仕事が増えた程度で機嫌を悪くしたところを見たことがない。  ごそごそと身体を動かして、時計を見る。10時を過ぎている。ユーリは「あっ!」と声を上げて身体を起そうとしたが、手に力が入らずにそのままベッドから落ちた。 「なにをやってるんだ」  大人しくしていろと、ユリウスの声がする。つかつかと近寄ってきたかと思うと、身体を抱き起され、ベッドに戻された。それだけで既にもう体が痛い。どこか骨でも折れているんじゃないかというほどに呼吸がおかしい。さすがにユリウスがそれを見逃すはずがないが、左胸に妙な違和感と疼くような痛みがさっきからずっと走っている。 「ゲストが来る」 「ゲスト?」  ユリウスが怪訝な顔をした。 「え、あのクソ野郎がなにか言ってなかった?」  ゲスト、と口の中で呟いて、ユリウスが首を横に振った。ほのかに甘いかおりがふわりと漂う。 「なにも聞いていないが」 「え?」  そうだっけ? と、ユーリ自身も困惑する。

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