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夕方ごろに目が醒めた時、盛大に腹の虫が鳴った。隣のベッドで誰かの処置中だったからか、ふたりに大笑いされるなか、ユーリは小声で腹減ったとぼやく。朝からなにも食べていない。
「よく寝てたなあ」
声をかけてきたのはセシリオだった。ということは、ここはA区の医務室だ。いつのまにか移動させられていたのか、それとも最初からここにいたのか、よくわからない。
「腹減った」
もう一度訴える。「腹減ったって」と、セシリオがユリウスに言う。ユリウスは「聞こえてるよ」とどこか呆れたような声色で言って、セシリオの下瞼を少し指で引いて、血色を確かめている。
「貧血気味なのと、外が暑かったからその関係かもしれない。ここで休んでいていい。ジュースを作って来る」
そう言って、ユリウスが立ち上がり、部屋を出て行った。外から鍵をかける音がする。
「大丈夫?」
セシリオが話しかけてくる。ユリウスの処置のおかげなのか、だいぶ痛みが引いているのか、楽に体が動かせる。
「誰かマテウスの野郎ぶっ殺さねえかな」
ぼそりとセシリオが言う。
「やめとけって。聞かれたらこっちがヤバい」
そのとおりだと思いつつも、非難する。いつもならノリノリで殺害計画を練るのにそれをしないという時点で、セシリオはユーリがここにいる理由に気付いているようだ。
「昨日の夜、こっちでも病死者が出てさ」
ユリウスが戻ってこないのを確認し、セシリオが声を潜める。
「呼んでも誰も来ねえの。腹立ったからみんなでB区に行く通路との間のドアを叩きまくっていたら、ようやくサヴァンが来て」
そこまで言って、セシリオが「右目に眼帯やってるイケオジな」と注釈を加える。覚えがない。たぶん、こちらにはあまり顔を出さない看守だ。サヴァンが様子を窺ったけど、結局ダメだったとセシリオ。マジかと呟いたら、セシリオが眉根を寄せる。
「収容所の体制が変わったって言っても、どうせ俺たちに対する態度は変わらない。昨日の夜からおかしいって言っていたのに、誰も取り合ってくれなかったんだ」
言葉が通じないって不便だよなと言ったあとで、ふいにセシリオが咳をした。少し湿った咳と共に、肺の奥から妙な異音がする。少し苦しそうに息を吐いたあと、両手で頭を押さえた。
「おかげでこっちは寝不足なのに、朝から強制労働で参るよ」
「D区は暑さで大半死んだってさ」と、セシリオが言う。D区のほうまでは行ったことがない。A区の奴隷はD区の遺体を埋めることになっているから、それで情報が下りてくるのだろう。いくつか情報交換をする。レオのことを伝えようかと思った時、セシリオがそういえばと言葉を紡ぐ。
「新しい国医、みた?」
明らかに金持ちそうなやつと、セシリオ。レオのことだ。素直に頷くと、セシリオが「いいなあ」とため息交じりにぼやく。
「俺も性奴隷のままでいたかった」
そのほうが楽だったのにと恨みがましく言う。
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