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セシリオは元々ユーリとおなじC区にいて、半年前まで性奴隷だった。だけど妙な病気をゲストにうつされたことと、治療のために使う薬品が体に合わずに死にかけたことから、A区に移送されたのだ。だからA区の連中とは寝るなという御触れまで出ている。元々が性奴隷だった人が何人も向こうにいるのだから、血の気の多い人たちの捌け口にされて、看守が手に掛けなくても自滅するのを見て悦んでいるのではないかと、シリルたちが話していたのを聞いたことがある。セシリオのこの変な咳は、たぶんその病気のせいだと思う。
「マテウスの目の敵にされるのと、強制労働、どっちがマシ?」
「こないだ複数人に犯されたし、その前は目が合っただけで腹を殴られた」と告げると、セシリオが嫌な顔をした。
「両方嫌だけど、それなら強制労働のほうがマシ」
セシリオが言うのを聞いて、今度はユーリが嫌な顔をした。唇を尖らせて、「裏切り者」と罵ると、セシリオが「おまえが生意気だからだ」とけらけらと笑った。
医務室の鍵を開ける音がする。ドアが開き、ユリウスが入ってきた。手にしているトレイには、銀製のカップがふたつ乗っている。
「薬草で作ったシロップとクオーラの蜜で作ったゼリーだ」
それなら食べられるだろうと、ユリウスが言う。体を起こすように言われ、ゆっくりと体を起こす。カップと共に木製のスプーンを手渡された。カップの底にはそのゼリーを粗く崩したものが、そしてシロップが混ざったジュースがたっぷりとはいっている。甘酸っぱいかおりがする。
「沁みない?」
酸味のあるものは口に傷がある場合には苦痛だ。
「粘膜の傷を保護する意味合いもある。少し沁みるかもしれないけれど、治りがよくなるぞ」
「少しじゃなかったらなにしてくれる?」
ユリウスが呆れたような視線を向けてきた。溜息を吐かれる。
「じゃ、俺がもらおうかなあ」
「それはダメっ。俺だって腹減ってるんだから」
伸びてきたセシリオの手を振り払って阻止する。取られる前にと恐る恐るひと口啜って、盛大にむせた。ゲホゲホと噎せ込むユーリの手からユリウスがカップを取った。零れると床とベッドが大惨事だからだろう。そのまま背中を擦られる。
「大丈夫か? ネスラの果肉を使ったゼリーだから、そこまで酸味はないはずだぞ」
「いってぇ……、ナニコレっ? 口の中がジンジンする」
涙目になりながら口を押える。ユリウスがセシリオに「刺激があるか?」と尋ねると「全然」と返ってきた。
「口を開けて」
言われて、素直に口を開ける。ユリウスが胸ポケットから出したペンライトで口の中を照らしたあと、「うわ」と引いたような声を出した。
「これはたしかに、なにを食べてもしばらくは沁みるな。かなり炎症を起こしている」
ペンライトをしまいながら、ユリウス。マジかよとぼやいたものの、また腹の虫が鳴く。ユーリはぶっきらぼうに「それちょうだい」と言って、ユリウスの手から銀製のカップを取り返した。
「中のゼリーだけ食べる」
言って、スプーンで掬って少しだけ口に運んでみる。おそるおそる、ゆっくりとそれを食む。いまのところ刺激はない。いけるかなと舌で押しつぶしたとき、びりっとした刺激に大袈裟なほど身体が跳ねた。変な声が上がる。
「A区にはいかないほうがいいと伝えておく。しばらくここにいるか、上に掛け合って別の収容所のちゃんと設備が整った場所に行くか、どちらかだな」
食べられなければ衰弱するだけだと、ユリウス。ほかのところには行きたくないとぶっきらぼうに言って、ユーリは涙目になりながらもそのゼリーを時間をかけて完食した。
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