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「イル・セーラは純血以外増やすな、というのが上の考えらしい。B区には適齢期の女性しかいない。ってことは、だ」
「……ああ」
ノッポさんがドン引きしたような声を出す。なにがそんなにまずいことなのだろうと思っていたら、ノッポさんが急にユーリに覆いかぶさってきた。
「この子、マジで女の子じゃなくてよかったっすね」
「どっちが良かったかわかったもんじゃねえだろ」
サヴァンの呆れたような声がする。
「あんまり情をうつすなよ。かわいそうだが、いつ殺されるか、いつ死ぬかもわからない。助けてやりたいと思ったこともあるが、脱出させるにはあまりにもリスクがありすぎる。だから妙なことを考えるな」
「考えちゃいないですけど、マテウスさんからC区の子たちが目を付けられない方法ってなんかないんですか? サヴァンさんみたいに戦ったら怯みますかね?」
案外強いですよと、ノッポさんが言う。ノッポさんは一度ユーリの髪を撫でたあと、立ち上がった。
「割と給料がいいっていうから飛びついたら、とんでもねえ仕事だったんですよ」
「この国のお偉いさんはなにを考えているんだか」と、ノッポさんがぼやくように言う。すぐにサヴァンがおいと声を潜ませた。
「ここで“それ”はやめておけ。長くいりゃあそれなりに慣れる。慣れなきゃやめるまでだな。病む前に、それから、質の悪いガキに誑かされる前にな」
ドキリとした。サヴァンには狸寝入りがバレているのだろうか。そう思ったけれど、サヴァンはそれ以上なにも言わなかった。こちらに近付いてきたかと思うと、大きな手でわしわしと頭を撫でられた。
「冷蔵庫の中にヨーグルトが入っているから、食わせてやるといい。A区の連中に食わせてやった残りだけれど、なにも食えないよりマシだろ」
「わかりました。でも、本当にC区の見回りまで任せてよかったんですか?」
「B区の見回りは外からしかできないし、基本的にはなにかがあったらブザーを鳴らすように体制が変わった。
A区の奴らは顔なじみだし、C区の連中は強制労働で疲れていつも爆睡しているだろう。基本的には手がかからない。まあ、それもこれもそこの『チビ』ときょうだいたちがC区の連中のいうことを聞かせているのではないか……という懸念から、マテウスに目を付けられているんだ。頭を潰せば群れは大人しくなる」
初めて聞いた。バレないように目を閉じて狸寝入りに徹していたら、上から静かに笑う声がした。
「かわいい顔して案外強かだと聞いているから、気を付けろよ。
今日の診療医はちょっときなくせえからな。何事もねえように、明日Sig.フィオーレに引き渡すまで、おまえはここにいろ」
わかりましたとノッポさんが言うのを聞いて、サヴァンはなにを追究してくるでもなく部屋を後にした。
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