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この人がくると本当にやり取りがスムーズで済む。みんなこんな大人ばっかりならなあとステラ語でぼやいたら、シアンもまた本当になと相槌を打った。ふと時計を見上げる。もう診療医は帰る時間だ。
「ねえ、時間だよ?」
Sig.フィオーレは時計を見上げ、「ああ」と軽く笑った。
「気にしなくていいよ。処置に時間を要して帰りが遅くなるなんてよくあることだ。
ユーリ、もし夜中にシアンが熱を出したり、患部が痛むようなら、看守を呼んで薬をもらえるように通訳してもらえるかい?」
「いいけど、今日の夜も診療医がいないの?」
「そのようだね。周辺の村でちょっと厄介なことが起きているから、そちらに人員を取られているのかもしれないね」
上に掛け合ってみるよと、Sig.フィオーレが言う。さっきの塗り薬を塗った上からガーゼを何枚も重ねたものを置く。怪我をしていないほうにもガーゼを宛てて、両側に添え木を宛てて少し幅広で硬めの包帯を巻きつけていくのを眺める。手際がいいうえに、添え木で皮膚が擦れないようにちゃんと配慮してくれているらしい。添え木にも一応厚手のガーゼが巻かれている。
「覚えたかい?」
「えっ?」
「気になるんだろう?」
目配せをされ、言われている意味に気付く。やたら説明口調で話しながらやっていたのは、ユーリ自身に手順を教えるつもりだったようだ。言われるまでもなく、覚えている。
「覚えるだけならタダだ。いざというときに役に立つ」
言って、シアンに立ち上がるようにジェスチャーをする。痛みの有無を確認しているようだけれど、シアンが不安そうにこちらに視線をよこした。
『このまま仕事しろって言われないかな?』
『いや、鬼だろ』
でもマテウスは鬼かと口の中で呟く。
「なんだって?」
「このまま仕事をさせられないかって」
Sig.フィオーレはいつもの表情のままだ。「そうだなあ」と少し間延びした言い方をして、シアンの頭を撫でた。
「痛いなら我慢をしなくていい。ユーリと一緒に今日はここに泊ってもいいし、労働時間はもう終わりのはずだろう?」
Sig.フィオーレはなにも知らないらしい。言うまいと思っていたけれど、ユーリは「ねえ」とSig.フィオーレを呼んだ。
「マテウスとか、威圧的な看守は、未だに日が暮れても労働をさせるんだ」
「なるほどね。彼らの時はやたらとペースが速いのはそういうことか」
徐に立ち上がり、デスクのほうへと向かう。カルテになにかを書き加えているようだ。シアンにいまのやりとりを通訳すると、不安そうに首を横に振った。
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