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 コの字型の牢の奥には懲罰房がある。まだ体制が変わる前、よくその懲罰房の中でマテウスたちにマワされていた。クロードが殺されたのもここだ。あまり近付きたくないし、その周辺の空気にふれるたびに胸の奥がざわりとする。  本来ならここの牢はロの字型だったけれど、いまは向こう側は閉鎖されている。近付くなと言われたし、簡易的に作られた格子戸の鍵がかかっているから入ろうにも入れない。ロの字型になっている牢の真ん中に懲罰房がある理由は、格子戸のなかにさらに狭い格子戸で仕切られた牢が設置されている状態だから、中でなにをされているかも見えるし、聞こえる。視覚から、聴覚から、奴隷であると支配するためだと聞いたことがある。  いまはさすがにここに入れられるようなことはないだろう。ないと思いたいけれど、――。不意にあの時のことが脳裏をよぎり、足が竦む。ひとりでここにいるのは嫌だと思うのに、足が動かない。足の先から凍り付くような冷たさと滲み出るようななにかに支配されていくのがわかる。  仕方がないとはいえ、誰も助けてくれなかった。シリルも、みんなそうだ。ただ背を向けて、耳を塞ぐように布団にくるまっている姿だけは目に焼き付いている。ただ、サシャだけは止めようとしてくれたけれど、それをエドが制止した。ずきんと腹の奥が痛むような感覚が蘇ってきて、腹を押さえる。そういえば、クロードが殺されたあともそうだった。  ノッポさんも言っていた。どうしてノルマはイル・セーラを支配したがるのだろう。レオは同じ人間だと言っていたけれど、人間は人間を支配するものなのだろうか。それでなにが生まれるのだろう。なんの為なのだろう。本当によくわからない。また腹の奥が痛くなってきた。両手で腹を押さえたせいでほうきを取り落とし、派手に石づくりの床が鳴る。冷や汗が出てきた。気持ち悪い。呼吸がしづらいような、ふわふわするような感覚が襲ってきて、床にしゃがみ込んだ。  ――おかしい。こんな記憶はないはずだ。痛みと恐怖で泣き叫ぶユーリの目の前に転がっていたのは、ユーリに優しくしてくれていた人の遺体だった。

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