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「冗談だとは思うが、エゼットさんが数日前にそいつをマワしたと言っていた」
ユーリが怪訝な顔をしたからか、看守は「冗談だと思うと言っただろう」と語気を強める。でも、シアンの様子は明らかに変だった。ざわりとする。
「数日前って、いつのこと?」
「A区で病死者が出た日だ。サヴァンさんがエゼットさんと揉めて、その間にA区で病死者が出ていたらしい。マテウスさんは知らないと言っていたようだし、サヴァンさんは元々余計なことを口にしない人だ。ティトと話しているところしか見たことがない」
エゼットという名前に聞き覚えがない。誰のことだろうと思案する。看守は看守でみんな仲が悪い。それぞれ派閥があるらしいし、ノッポさんはそのサヴァンと、いつもの馴染みの看守――カザマ(ノッポさんがそう呼んでいた)とノッポさんは仲が良いみたいだけれど、そのほかはだいたいノッポさんがなにか愚痴っている。そういえば、この人のことを愚痴っているのを聞いたことがない。一番年下のくせにユーリのように小生意気なのがいる……と言っていた程度だ。
自分はゲストに抱かれていたし、その時のことはよくわからない。もし牢内でなにかがあれば、サシャがいるからドン・フォンターナにバレることを懸念して、なにもしないはずだ。シアンは元々マテウスのことが嫌いだし、ユーリと違って怒鳴られると泣く。だからだとは思いたいけれど、――。
片手をあげて窓を拭くせいで、逆側の肩からほつれた服の袖がずり落ちる。それが引っ掛かって邪魔だから何度もたくしあげながら掃除をしていたけれど、面倒で諦めた。そろそろ替えが欲しい。シアンのことがあって、Sig.フィオーレに服が欲しいと頼むのを忘れていた。
唐突に「おい」と声を掛けられる。そのまま振り向くと、その看守が眉間にしわを寄せて視線を逸らしているのが見えた。なんとなくだけれど、顔が赤い。きょとんとする。
「衣服を整えろ」
言われて、下を見る。自分が着ているのは、襟ぐりの大きな、オーバーサイズの服だ。左肩の袖がだらんと肘のあたりまで下がっているせいで、胸元が丸見えになっているのに気付く。またきょとんとする。なにを言われているのかがわからなくてそのまま看守を眺めていたら、舌打ちをされた。無言のまま看守に袖を直される。ああ、そういうことかと思いつつ眺めていると、呆れたような顔をされた。
「いくらガキでも気を遣え」
厳しい口調で言われる。気を遣うもなにもと思いながらも、「はぁい」と素直に返事をする。肩口を引っ張って、端と端を軽めに結ぶ。これならずり落ちてこないだろうと、文句を言われる前に窓ふきを再開した。
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