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05★

 女性たちが裏手に干していた洗濯物を取りに行った際、裏の作業小屋のほうから大きな音がした。ノッポさんの声が続く。緊迫した雰囲気に不穏の色が纏う。シアンの声がした。呻き声を噛み殺すようなそれは、明らかに苦しげでいて行為の最中を思わせるようなものだ。ぞわりとする。 「エゼットさん、あんたマジでおかしいですよ」  ノッポさんの普段聞いたことがないような声だ。看守が溜息を吐きながら物音がするほうへと向かう。ノッポさんの後ろには蹲っているサヴァンがいる。よく見えないけれど苦しそうだ。建物の陰からまたシアンの声がした。今度ははっきりと「痛い」と聞こえる。いてもたってもいられなくて声のしたほうに走ろうとしたら、看守に思いきり腕を引かれた。 「なにをやっているのですか」  ユーリを庇うようにしながら、看守が建物のほうへと近づいた。ノッポさんたちの前には配給の量が機嫌次第で変わる嫌味な看守がナイフを持って佇んでいる。その向こうにはシアンを組み敷いているトサカがいた。エゼットがトサカのことだと初めてそこでつながった。  声を殺して泣いているのがわかる。シアンは傷だらけだ。数日前に怪我をした場所は不自然な方向に曲がっている。胃の奥を誰かに捕まれたような不快感が込み上げた。 「シアンを離せ、痛いって言ってるじゃないか!」  トサカの視線がこちらを向いた。風に乗って不自然なほど甘い香りが漂ってくる。前にも嗅いだことがあるにおいだ。それにトサカの目は異様に血走っていて、いつものただの嫌味な視線ではないことに気付く。  早くシアンの元に行ってやりたいのに、看守に腕を捕まれる。「やめておけ」と羽交い絞めにされたとき、シアンが気付いて「助けて」と叫んだ。またざわりとする。 「まじでなんなんすか、俺にはサヴァンさんの意見のが正しいように思います。あんたらがやっていることは、市街ではただの犯罪ですよ」  ノッポさんがサヴァンの腹を押さえながら言う。よく見るとノッポさんは制服の上着を着ていない。それを横目にみて、トサカがシアンを犯しながら薄気味悪く笑った。 「犯罪だ? こいつらはこのためにいるんだ、でなければ王自らがこのような場所を作るはずがない」  サヴァンがなにかを言ったのか、ノッポさんがサヴァンの言葉に耳を傾ける。小さく頷いたかと思ったら、ノッポさんが立ち上がって、嫌味な看守に向けてホールドアップした。 「とりあえず、その物騒なもん下ろしましょ。看守5人も集まってちゃまずいですって。  このことがドン・フォンターナにバレでもしたら、大目玉ですよ」 「バレなきゃいい」

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