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06★

 トサカはわざとシアンが痛がるように腰を打ち付けたあと、「やめて」とシアンが叫ぶのにも構わずに唸った。獣が呻くような醜悪な唸り声と同時にぶるりと体を震わせる。 「おれが身代わりになるから、シアンを離せ」  看守の腕から逃れようと藻掻きながら、トサカを睨みつける。トサカは笑いながらシアンから凶悪な性器を半分ほど抜き去りながらこちらに視線を向けた。やっぱり、前にもこの目を見たことがある。手が震えてくる。トサカにはなにもされた覚えがないのに、身体が覚えているとでも言っているかのようだ。 「仲間思いの良い子だなあ、貴様は」  くつくつと喉の奥で笑いながらトサカがシアンを解放し、ゆらりと身体を揺らすようにして態勢を整える。シアンの破れた服の切れ端で性器を拭い去ると、衣服を整えながらこちらにやってきた。 『ユーリ、ダメだよ! この人の口車に乗っちゃダメだ!』  シアンが叫ぶ。口車? と口の中で呟いたとき、トサカがシアンの腹を蹴り上げた。勢いでシアンが吹っ飛び、建物の土台に思いきり身体を打ち付ける。はっとしたときには既にトサカが獲物を定めた獣のような目でこちらを見ていた。ゆらりとこちらにやって来る。看守に羽交い絞めにされているユーリを見下ろし、にたりと口の端で笑った。 「ヤクト、そのガキを渡せ」  この看守はヤクトというらしい。思わず振り返ったとき、ヤクトの視線の先にノッポさんがいるのに気付いた。  ヤクトはトサカ相手にまったく怯む様子がない。それどころか、冷めた表情のままだ。感情が読めない。ノッポさんのほうから呻き声がして、とっさにその方角に視線をやった時、ユーリは目の前の光景を疑った。ノッポさんが嫌味な看守を叩きのめして地面に押し付けているところだった。その声にトサカが振り返った瞬間、ヤクトがユーリを解放してトサカの後ろから腕を回してぐっと首を締め上げるのが見えた。トサカの呻き声があがる。ヤクトの力が強いのか、腕をほどこうと暴れるがびくともしない。 「おー、なかなかやるじゃん、新入り」  ノッポさんがカラカラ笑いながら言って、嫌味な看守の腕を後ろ手に縛りあげる。ヤクトはほぼ無反応のままトサカの首を後ろから締め上げ、大げさな溜息を吐いた。 「減給分はあなたが払ってくださいよ、ティト」 「わ、辛辣ぅ。とりあえずおまえは診療医呼んで来い、たぶんE区かどっかにいる」  わかりましたと言いながら、ヤクトが完全に伸びているトサカを引きずっていく。シアンに駆け寄ったけれど、頭を打っているのか意識がない。頭を確認するが、血は出ていないようだ。ユーリはすぐさまノッポさんを呼んだ。 「ねえ、あの実採りたいから、肩車して」  言って、上に生っている果実を指さす。ノッポさんは自分の手が血まみれだからなのか、後ろ手に縛られている嫌味な看守の服で手を拭いたあとでユーリを軽々と抱き上げた。 「なんに使うんだ?」 「血止めと、傷薬。この実の皮は傷口に直接貼るといいって、Sig.フィオーレが言ってた」  なるほどなと言いながら、ノッポさんもいくつか果実を採るのを手伝ってくれる。5,6個あればいいと言って、下ろしてもらう。サヴァンの傷が切り傷でも、刺し傷でも、とりあえず皮を剝いでそれを傷口に当てる。実は傷口に付くと沁みるから、布があれば布に実を入れて傷口に果汁が当たるようにして置けばいい。本来なら蜜を使うが、そういう使い方もあるらしいと、ノッポさんに告げた。 「へえ、あの人なんでも知ってんな」  さすがは軍医と、ノッポさん。軍医? と尋ね返したら、ノッポさんはひらひらと手を振って「こっちの話」と笑いながらサヴァンのほうへと駆けて行った。  軍医ってなんだろう? 不思議に思いながらも、ユーリはノッポさんにサヴァンの傷を任せ、シアンに駆け寄った。

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