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第11話
食事は一日に三度。
朝、昼、夜と、決まった時間に運ばれてくる。
どうやら城の調理場で作られているらしく、どれも少し冷めていた。
兄が訪れてから、二日が経った。
本日三度目の食事も、一人、静かに摂る。
ここに閉じ込められる前は、食事は家族団欒の楽しいひとときだった。
笑って、美味しくて、幸せな時間だった。
──けれど今は。
食事はただ「摂らされるもの」に変わってしまった。
無理にでも口に運ばなければならない、義務のような時間。
残すと怒られる。
「栄養が偏って、卵ができなくなったらどうする」と叩かれたこともある。
それ以来、無理にでもすべてを食べるようになった。
でも、ストレスのせいか、最近は味もよくわからない。
食べても、口の中に広がるのは無味と虚無。
ノアリスにとって、食事はもはや──拷問に近かった。
同盟の話は、上手くいっているのだろうか。
ノアリスにとっては、全く関係の無い話なのだが、あの王様が頭にチラついて、気になっている。
食事を終えて、口元を拭い、鉄格子の嵌められた窓から外を見る。
この低い塔では、城下の様子を眺めることすら叶わない。
ただ、月に一度だけ歩くことを許された庭を見下ろすだけだ。
退屈で、希望のない日々なんて、早く終えてしまいたいが、どうしようもなく、ここには何もない。
それに、食事とともに運ばれてくるカトラリーは、自害できないようスプーンだけだ。
四年前までは、こんな生活ではなかった。
外の世界を知っているからこそ、余計に辛い。
──コン、コン
「っ!」
突然、扉をノックされ、振り返った。
いつも、この時間には誰も来ない。
食器を片しに来るのは、いつも翌朝。
朝食と交換するように、空いた皿が下げられていく。
風呂は、七日間に一度だけ。
庭に出た二日前に入ったので、それも有り得ない。
では、誰が。
この外界から閉ざされた塔に、自ら来るのは──
想像して、体が震える。
兄か、王か。それとも噂を聞き付け犯しに来た知らない誰かか。
「中にいるのだろう。ノアリス王子」
「っ、」
聞いた事のない、低くて太く、厚い声。
ノアリスの呼吸が上がる。
「初めまして。隣国ルイゼンの王、カイゼルだ」
「!」
ノアリスは驚いて目を見張った。
閉じられた扉を凝視したまま、動けない。
「先日、少しだけ会ったな」
「っ、は、はい」
「! 貴殿と少し、話がしたい。入ってもいいだろうか」
「ぁ……」
予想だにしない訪問者に、ノアリスは何も言えなかった。
きっと、誰かにバレてしまうと、カイゼル王が危ない。
けれど、──話してみたい。
ノアリスはおずおずと扉に近づき、しばし迷った末──返事の代わりに、コツン、コツンと二度、ノックを返した。
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