12 / 91

第12話

◇ 「──陛下の予想通りでした」 「ほぉ」  イリエントに情報収集を命令した翌朝のこと。  早速忍ばせていた者から返事があったようだ。 「まず、あの塔には王子が囚われています。それも、四年前からのことです」 「……十四の頃からか」 「はい。詳細は伏せられていますが、その年に城内で大きな事件があった形跡があるとのことです。同年に王妃陛下もお亡くなりになられておりました」  カイゼルは紅茶を口にしながら、事件の時系列を静かに頭の中で組み立てていた。 「毎日、朝昼晩と食事は城の調理場から運ばれるそうです。湯浴みは七日間に一度。塔の見張りは、階段を昇った先にある王子の監禁された部屋の前に二人」 「女官が出入りする時間は」 「はい。朝昼は出入りが多いようですが、夜は食事を届けたあとは無いようです。夜の食器は朝に回収するとか」  カイゼルは眉間に深い皺を寄せ、唇の端をぐっと噛んだ。  それは彼にしては珍しい、感情の揺れだ。  続く報告も、カイゼルを苛立たせる物にしかならず、ある程度話を聞くと、静かに手を挙げて止める。 「俺があそこに入り込める時はいつだ」 「はい。夜、食事が運ばれたあとが最も警備が薄くなります。見張りは二人。当日当番の物の食事に、眠り薬でも混ぜれば、見張りの途中で眠ってくれるでしょう」 「……簡単に混ぜられるのか? それに、扉の鍵はどうする? おそらく、かけられているだろう。それも、内側からでは開けられないものが」  指摘すれば、イリエントはニィッと笑う。  嫌な笑みに、カイゼルは口元を引き攣らせた。 「眠り薬を混ぜることなど簡単です。すぐに指示を出し、そのように致しましょう。鍵はおそらく、見張り番が持っているはず。眠ったところを拝借すれば問題ありません」 「……」 「褒めてもいいのですよ」 「褒めるなら、お前の命令を聞き、全てを無事に遂行している者を褒めよう」 「なぜ!?」 「お前はすぐに調子に乗るから」  あからさまに『納得できない』といった表情をするイリエントを、鼻で笑う。  実行は、今日の夜。  ──また、あの金の姿を見られる。    カイゼルはこの後に控えている会談のことを忘れ、ノアリスに会えることだけを楽しみに、再びカップを傾けた。

ともだちにシェアしよう!