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第12話
◇
「──陛下の予想通りでした」
「ほぉ」
イリエントに情報収集を命令した翌朝のこと。
早速忍ばせていた者から返事があったようだ。
「まず、あの塔には王子が囚われています。それも、四年前からのことです」
「……十四の頃からか」
「はい。詳細は伏せられていますが、その年に城内で大きな事件があった形跡があるとのことです。同年に王妃陛下もお亡くなりになられておりました」
カイゼルは紅茶を口にしながら、事件の時系列を静かに頭の中で組み立てていた。
「毎日、朝昼晩と食事は城の調理場から運ばれるそうです。湯浴みは七日間に一度。塔の見張りは、階段を昇った先にある王子の監禁された部屋の前に二人」
「女官が出入りする時間は」
「はい。朝昼は出入りが多いようですが、夜は食事を届けたあとは無いようです。夜の食器は朝に回収するとか」
カイゼルは眉間に深い皺を寄せ、唇の端をぐっと噛んだ。
それは彼にしては珍しい、感情の揺れだ。
続く報告も、カイゼルを苛立たせる物にしかならず、ある程度話を聞くと、静かに手を挙げて止める。
「俺があそこに入り込める時はいつだ」
「はい。夜、食事が運ばれたあとが最も警備が薄くなります。見張りは二人。当日当番の物の食事に、眠り薬でも混ぜれば、見張りの途中で眠ってくれるでしょう」
「……簡単に混ぜられるのか? それに、扉の鍵はどうする? おそらく、かけられているだろう。それも、内側からでは開けられないものが」
指摘すれば、イリエントはニィッと笑う。
嫌な笑みに、カイゼルは口元を引き攣らせた。
「眠り薬を混ぜることなど簡単です。すぐに指示を出し、そのように致しましょう。鍵はおそらく、見張り番が持っているはず。眠ったところを拝借すれば問題ありません」
「……」
「褒めてもいいのですよ」
「褒めるなら、お前の命令を聞き、全てを無事に遂行している者を褒めよう」
「なぜ!?」
「お前はすぐに調子に乗るから」
あからさまに『納得できない』といった表情をするイリエントを、鼻で笑う。
実行は、今日の夜。
──また、あの金の姿を見られる。
カイゼルはこの後に控えている会談のことを忘れ、ノアリスに会えることだけを楽しみに、再びカップを傾けた。
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