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第13話

 会談は相変わらず停滞していた。  昨日は居た王はおらず、代わりに宰相サハルが皇太子と共に着席している。 「何度も伝えているが、こちらは貴国が差し出すものが、対価として遜色なければすぐに受け入れると言っているだろう」 「……ですから、」 「医療の知識と技術? ──そんなもの、提供するのは当たり前だ。我らが差し出すものの足元にすら及ばん」  肘掛けを指先でコンコンと叩く。  いつまでこの下らない言い合いをしなければならないのか。   「万能薬など、ございません」 「はは、そう来たか。そんな浅ましい嘘で俺を欺けるとでも?」 「……」 「これは、遊びではない。──国の命運をかけた取引だ。もっと慎重に言葉を選ぶことだな」  カイゼルは苦笑するイリエントを盗み見て、「ああ、そうだ」と思いついたかのように口を開けた。 「万能薬が嫌だと言うのなら、ノアリス王子を我が国に迎えよう」 「なっ──」  皇太子は息を飲み、そして深く息を吐く。 「ノアリスは療養中です。とても、外には出れますまい」 「だが、時の気分転換は必要だろう。それに、今直ぐにとは言わない。もちろん、回復するのを待つさ。そして、我が国に連れていく」 「な、ぜ……? 貴国に連れ帰るメリットなど、ひとつもないでしょう」 「いや、ある。──噂ではさぞ美しい王子だと聞いた。俺は美しいものが好きだ。連れ帰り、妻として迎えよう」  にっと口角を上げたカイゼルに、皇太子は絶句した。 「……ノアリスは、男だ」 「ああ。しかし、関係あるまい。俺にとって性別はどうでも良い」  これにはイリエントも小さく溜息を吐いているが、しかし、カイゼルの考えは変わらない。 「そなたらは武力が欲しい。俺は万能薬か王子が欲しい。二つに一つだ。選べ」 「っ」  皇太子は苦虫を噛み潰したように顔を歪め、サハルに関しては静かに俯き、何を言うこともない。    ──一手、優位には立った。だが、まだ気は抜けない。  平和に解決したい問題だが、まだ気を弛めることはできそうにない。  皇太子の目が、鋭くカイゼルを睨みつけていた。

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