13 / 91
第13話
会談は相変わらず停滞していた。
昨日は居た王はおらず、代わりに宰相サハルが皇太子と共に着席している。
「何度も伝えているが、こちらは貴国が差し出すものが、対価として遜色なければすぐに受け入れると言っているだろう」
「……ですから、」
「医療の知識と技術? ──そんなもの、提供するのは当たり前だ。我らが差し出すものの足元にすら及ばん」
肘掛けを指先でコンコンと叩く。
いつまでこの下らない言い合いをしなければならないのか。
「万能薬など、ございません」
「はは、そう来たか。そんな浅ましい嘘で俺を欺けるとでも?」
「……」
「これは、遊びではない。──国の命運をかけた取引だ。もっと慎重に言葉を選ぶことだな」
カイゼルは苦笑するイリエントを盗み見て、「ああ、そうだ」と思いついたかのように口を開けた。
「万能薬が嫌だと言うのなら、ノアリス王子を我が国に迎えよう」
「なっ──」
皇太子は息を飲み、そして深く息を吐く。
「ノアリスは療養中です。とても、外には出れますまい」
「だが、時の気分転換は必要だろう。それに、今直ぐにとは言わない。もちろん、回復するのを待つさ。そして、我が国に連れていく」
「な、ぜ……? 貴国に連れ帰るメリットなど、ひとつもないでしょう」
「いや、ある。──噂ではさぞ美しい王子だと聞いた。俺は美しいものが好きだ。連れ帰り、妻として迎えよう」
にっと口角を上げたカイゼルに、皇太子は絶句した。
「……ノアリスは、男だ」
「ああ。しかし、関係あるまい。俺にとって性別はどうでも良い」
これにはイリエントも小さく溜息を吐いているが、しかし、カイゼルの考えは変わらない。
「そなたらは武力が欲しい。俺は万能薬か王子が欲しい。二つに一つだ。選べ」
「っ」
皇太子は苦虫を噛み潰したように顔を歪め、サハルに関しては静かに俯き、何を言うこともない。
──一手、優位には立った。だが、まだ気は抜けない。
平和に解決したい問題だが、まだ気を弛めることはできそうにない。
皇太子の目が、鋭くカイゼルを睨みつけていた。
ともだちにシェアしよう!

