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第14話

 本日の会談を終え、イリエントと話すのは今夜のこと。 「見張り番の人間も見つけました。眠り薬は確実に飲ませます。ですが、念の為、護衛を二人つけてください」 「わかった」 「護衛には、扉の前で待機させます。何かあったら、すぐに知らせるように」  カイゼルは頷き、イリエントの名前を呼んだ。 「今日は、会うだけだ。会って、話をする」 「ええ。連れ去ってくるとは思っていませんが、そのような事があれば私は辞職します」 「はは。潔がいいな」 「浅はかな王について行く臣下は居ないでしょ」 「よかったな。浅はかな王ではなくて」  イリエントはあからさまに口をへの字に曲げているが、カイゼルはそんなもの気にもかけない。  ただ、あの金の姿が見たい。   「そこまで長い時間は、あの塔に居られないと思いますよ」 「だろうな。少しでも違和感を感じられたら次はないだろうし。その点で言えば眠り薬も危ういが」 「人間ですよ? 眠らない人間はいないでしょう」 「二人同時に眠くなって寝ちまうような見張り番がもしも居たなら、俺はそいつらをクビにするね」 「仕方ないでしょう。薬を盛られることに対して、彼らに落ち度は無い」 「薬を盛られてることに気づかないことが問題だ」  何の感情も乗っていない表情に、イリエントは苦笑する。   「その時がきたら、お知らせします」 「ああ。俺はこれから王子と会って何を話すか考える」 「え、考えてなかったんですか」 「? ああ。結婚の話を持ち出すか」 「いきなりですか? ……きっと引かれますよ」 「ああ、俺に惹かれるだろうな」 「そのひかれるではありませんが……」  苦笑をこぼすしかないイリエントだが、何を言ったとて、自身の王は一度決めたことを変えることはしない。 「どうか、王子様を傷つけるようなことはなさらないように」 「そんなことするわけがないだろう。俺の妻になる人間を傷つけてどうする」 「……」 「なんだその顔」 「あ、いえ。失礼しました」  カイゼルは顔を逸らした側近にそれ以上何を言うこともなかった。  今夜のことで、心が踊っている。   「会えるのが、楽しみだ」    そう呟いた唇には、笑みが浮かべられていた。

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