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第15話

 決行の時が来た。  カイゼルは目立たない衣装に着替え、護衛とともにヒソヒソと塔に向かう。  辿りついた塔を静かに登り、二人の見張り番の様子を確認すれば、彼らはしっかりと眠ってくれていた。  護衛に鍵を探させる。  その間に、カイゼルは目の前に立つ扉をコン、コンとノックした。  僅かに聞こえる衣擦れの音。  中に王子がいるのは、間違いなさそうだ。   「中にいるのだろう。ノアリス王子」 「っ、」  威圧感を与えないよう、静かに、そして穏やかに話しかける。 「初めまして。隣国ルイゼンの王、カイゼルだ」  足音は聞こえない。  驚いて固まっているのか、外からの声には反応しないよう、言われているのか。 「先日、少しだけ会ったな」 「っ、は、はい」  しかし、返事があった。  カイゼルは短く驚き、しかしすぐに会話を続ける。 「貴殿と少し、話がしたい。入ってもいいだろうか」 「ぁ……」  戸惑っている様子が伝わってくる。  少しの間待ったが、なかなか返事がない。  ──仕方がない。会うことは叶わないが、ここでこのまま、少し話をするか。  そう思い、再び口を開こうとした時、微かな足音が聞こえた。  そして──コン、コンと静かなノックが返される。  これは『良い』という事なのだろうか。  己の口からそれを口にするのは怖くて、しかし行動で示してくれたのだろうか。  護衛から鍵を預かり、そっと解錠する。  そして、重たい扉を開けると、そこには驚きで目を見開いている金の姿が。 「会うのは、二度目だな。再び会えたこと、嬉しく思うぞ」 「っ、ぁ、」 「怯えずとも、良い。俺がここに来たことは誰にもバレていない。それに……見張り番は疲れていたんだろうな。眠ってしまってる」 「……」  チラリと眠る見張り番達を見たノアリスが明らかにホッとするのを見て、カイゼルは目を細めた。  やはり、その姿は聖女のように美しかった。  日焼けを知らない真っ白の肌に、桜色の唇。  スーッと通った小さな鼻と、大きな瞳。  王子だ、男だと言われなければ、女性にも見えるような儚さ。 「……? カイゼル、陛下……?」 「……ああ、すまない。見蕩れてしまった」 「!」  ほんのり頬を赤らめる姿も、愛らしい。  カイゼルは数歩ノアリスに近づき、怖がらせないように膝をついた。 「っ! な、何を……おやめ下さい。私などに、そんな……畏れ多いことを……!」 「俺がそうしたいと思った。それに、こうすれば、目線の高さも近くなるだろう」 「ぁ……」  背中をかがめることもできたが、しかしそれで話をするのは些か体勢が辛い。  なのでカイゼルは国王陛下だという矜恃など放って、膝をついた。    これにはノアリスが顔を青くし目を逸らしたのだが、カイゼルはただ、静かに微笑んだ。  そして思う。  ──これ以上、惹かれたらどうしようか、と。

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