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第16話
しかし、ノアリスはどこか怯えているように見えて、カイゼルはそのまま静かに口を開いた。
「ここには外交で来たのだ。……フェルカリアには国王陛下と、王子が二人いると聞いていた。しかし……いざ謁見の場に行けば、皇太子しかいない」
「っ、」
「そこで、王子はと尋ねた。すると、療養中だと聞いてな。──だが、この部屋、療養中にして些か殺風景が過ぎる」
「ぁ……」
「……四年も前から、囚われているのだな?」
ノアリスの肩がピクリと震える。
だが、彼は何も言わなかった。否定も肯定もせず、ただ、押し黙ったまま。
その沈黙に、カイゼルはため息をつく。
責めるためではなく、哀しむように。
「俺は……なぜ、こんなにも貴殿のことが気になるのか、自分でもわからない」
「……っ」
「最初は、ただの興味だった。塀の向こうにいた貴殿の姿が忘れられなくて。だが、今は──それだけではない」
真っ直ぐにノアリスを見つめる。
すぐに逸らされた視線。しかし、彼は逃げることを知らないのか、はたまた、逃げ方が分からないのか、何を言うことも、することもしない。
「……貴殿を、助けたいと思った。力になりたいと、思ってしまった」
カイゼルの真っ直ぐな思いが、届いたのだろうか。ノアリスの頬が、ほんのりと紅く染まっていく。
「ここに囚われる生活で満足ならば、助けようなんて傲慢なことは、もう言わない。しかし、望んでいないのなら、俺の話に少しでもいい。耳を傾けてくれ」
「……」
「フェルカリアは、万能薬があると聞いた」
「っ!」
『万能薬』と口にした途端、ノアリスの顔色が変わる。
カイゼルは考えが的中していると思い、僅かにまゆを顰めた。
「それは、卵だと」
「ぅ……」
「その様子だと、何のことか知っているな?」
「……貴方も、卵を、お望みかっ」
突然、ノアリスは大きな声を出したが、カイゼルはそれでも静かに彼を見つめるだけだ。
「ああ。我らはフェルカリアに武力を差し出す。その対価を貰わねばならん。それが取引というものだ。──だが、その卵はどうしても無理だと言われてしまった。だから、私は、王子、貴殿が欲しい」
「なっ──そ、それは、私こそが、卵を産み出すと、承知の上で仰っているのですか……っ?」
「!」
明かされた真実に、カイゼルは僅かに目を見張った。
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