17 / 91
第17話
ノアリスの瞳が濡れている。羞恥か、怒りか、それとも──諦めか。
カイゼルは、すぐに言葉を返すことができなかった。
胸の奥を、何か鋭いもので貫かれたような感覚だけが残る。
「それは……知らなかった。おそらく、貴殿と卵には何かしらの関係があるとは思っていたが、まさか──」
産み出していたとは。
カイゼルは出方を誤ったか……と思ったが、どうにかして立て直さなければと、頭を回転させる。
「だが、それを知っても、俺の気持ちは変わらない」
「な、ぜ」
「私は、卵が欲しいわけではない。……いや、初めは欲しかった。我が国は疫病で命を落とす民が多い。それを解決できるのならばと思った。しかし……それよりも──貴殿を一目見た時に、惚れてしまったようだ」
「!」
一歩退いたノアリスは、悔しそうに顔を歪める。
「私、だって……この塔から出たいと思っております。……しかし、陛下達は許さないでしょう。私は卵を産む器。もはや王子などただの名称であって、尊厳はありません」
「……」
「近々、戦が起きると、聞きました。つまり……私はまた、何度も卵を産み落とすこととなるでしょう。卵は……精を注がれることにより、できます」
「なに……?」
黙って話を聞いていたカイゼルだったが、ノアリスの言葉に、つい反応をしてしまった。
「精を注がれて、数日経てば、卵は産まれます。……しかし、私は……私は、とても、苦しいのです……。痛みが、おおきくて……っ」
「っ、」
「それを、戦の間は、休む間もなく、何度も繰り返すことになる……っ」
目に涙を浮かべたノアリスが、力をなくしたように床に座り込む。
その背中を撫でようにも、カイゼルは罪悪感からそれができなかった。
自身も、一時は卵を欲した者。
まさか、そんなふうに万能薬が作られているとは思いもしなかったのだ。
「た、まごは……貴殿の、苦痛から、できている、と……?」
「っ、ですから……私はきっと、この塔から出ることは叶わないのです……。この命が尽きるまで……そうして、搾取される運命」
はらはらと大きな瞳から涙が散る。
カイゼルは奥歯をギリっと噛み締めた。
ともだちにシェアしよう!

