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第19話

「しかし、どういたしましょうか。フェルカリア側が交渉に値する十分なものを提示できなかったので、交渉決裂という風に進めますか?」 「それが一番平和に解決出来る手段ならば、それで良い。──ただ、どう連れ出すかだ」 「……帰国する際、何かしらの混乱を起こす他に何かあります?」 「……」  帰国の際に混乱を起こそうと思えば、それは簡単だろうが、しかし。 「おそらく、フェルカリアは警戒するはず。まずは我らが卵を奪おうとしていると疑い、王子のもとに向かうだろうな。そして──今度は見つけにくい場所に隠される」 「……なるほど。それは確かに、そうですね」 「で、あるならば……帰国してすぐ、フェルカリアに攻めいればいい」 「……は?」  イリエントは全く意味がわからないというふうに声を漏らし、そして首を振る。 「い、戦を、起こすつもりで!?」 「どうせフェルカリアは他国との戦を控えているのだろう。だから武力が欲しいと我らに同盟の呼び掛けをした。ならば、戦をすることに変わりはない。相手が少し武力の高い国に変わっただけよ」 「……」 「なんだ」 「……あまりにも、単純なお考えで、流石陛下だと思っただけです」  イリエントの言葉にカイゼルの眉が寄る。 「皮肉は要らん」 「では……国が無くなれば、王子は悲しみませんか」 「……」 「少なくとも、生まれ育った故郷が血で染まるのは、望まれないのでは」 「……どうしろというのだ」  問いかければ、彼はしばらく黙ったあと、ふっと目を細めた。 「──陛下。ご自身の手で奪おうとするから、無理が出るのです」 「……何が言いたい」  イリエントの瞳がキラリと光る。  よほど、自信のある策なのだろう。 「王子自身に“逃げる意志”と“手段”を与えればいいのです」 「逃げる、だと?」 「はい。塔に囚われているとはいえ、王子はまだ精神を失っておりません。そして、自ら逃げ出そうともしていない。であるなら──『逃げてもいい』という選択肢が、王子には与えられていないだけかもしれません」  カイゼルは腕を組み、目を細める。 「……つまり、お前はこう言いたいのだな。俺が手を出せば、外交的な正当性は失われる。だが、王子自身が塔を抜け出せば、それはフェルカリアの落ち度になると」 「その通りです。我々は、逃げ出した王子を“保護”しただけに過ぎない。──これなら、フェルカリアは、我らに対し、罪を問うことはできない」 「……逃げ道を用意してやると?」 「ええ。王子が自らの意思で歩けるよう、“道”と“灯り”を準備するのです。……陛下しかできない方法で」  カイゼルはしばらく沈黙した。そして、ゆっくりと口元に笑みを浮かべた。 「──やはり、お前は頼れるな、イリエント」 「光栄です」  ニコリ、微笑んだイリエントに、王は静かに頷いた。

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