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第28話
ベッドにそっとノアリスを降ろす。
「辛いだろう。横になって、休んでいてくれ」
「……はい」
「二日ほどはここで過ごすことになる。何かあれば遠慮なく言ってくれて構わない」
「ありがとう、ございます」
ノアリスの長いまつ毛が揺れる。下半身に違和感があるのか、横になる時の動きがぎこちない。
カイゼルは感じていた罪悪感が育っていくのを感じ、震える手で寝転んだノアリスの体に掛布を掛けた。
近くにいては、ゆっくり休めないだろうと思い、カイゼルは馬車の中、しかしベッドからなるべく離れた場所でイリエントと声を潜めて会話をする。
「酷い憔悴の仕方ですね。一国の王子であられるのに……」
「……これ以上弱ってほしくない。環境が変わり回復に向かえばいいのだが」
「ええ。従者はどういたしましょう。ご希望あればその通りに揃えるようにします」
チラリとベッドの方に視線を向ける。
寝転んでからというもの、一度も体勢を変えないノアリスの様子に、寝がりを打つのも体に響くのだろうかと心配になる。
「希望を聞いておこう。集まるまではしばらく俺が傍にいることにする」
「……余計怖がられませんか?」
「あ?」
「あ、いえ。陛下のお顔はどちらかと言うと恐ろしいので」
「相変わらずいい度胸をしているな」
「お褒めいただき光栄です」
ニッコリ微笑むイリエントに、ハッと鼻で笑ったカイゼルは、不意に立ち上がりノアリスの傍による。
彼は眠ることなく、ぼんやり目を開けて天井を見ていた。
「ノアリス」
「はい……」
「眠れないか」
「……落ち着かなくて」
「そうだろうな。何か、飲むか?」
「……」
「それとも、小腹がすいているなら、果物でも用意させるが」
「……」
視線は絡むが、何を言うこともない。
それは、求めているのかそうでないのかも分からない、何の気持ちも宿っていないのだ。
イリエントは静かに、二人の様子を眺める。
「ノアリス、少し、手に触れてもいいか?」
「……手?」
「ああ」
おずおずと、頷いたノアリス。
カイゼルはそれを確認して、白魚のような手にそっと触れた。
寒くは無いはずなのに、ひんやりと冷えきっているその手は、しかし、カイゼルが触れることでじんわりと熱が移っていく。
「俺にこうして触れられることは、怖くないか?」
「……はい。あたたかいと、思います」
カイゼルはふっと口元に笑みを浮かべた。
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