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第33話

 外に出てすぐ、ノアリスは初めて見る他国の様子に、静かに心を震わせていた。  これまで、フェルカリアしか知らなかった。  そして、四年間も塔に閉じ込められていたのだ。  初めて感じる空気に、カイゼルの肩に触れていた手についキュッと力が篭もる。  王の帰国を、迎える騎士達。  綺麗に並び、道を作っている。 「イリエント、ノアリスが怖がるだろう。この騎士達は仕事に戻らせろ」 「……それは流石に、騎士達も可哀想です。陛下のお帰りを待っていたわけですからね」 「……」  仕方ないという風に、その道を歩き進んでいくカイゼルは、歩みを止めることなく、静かに城内に入ると、そのまま迷いなくどこかに向かう。 「ノアリス、そなたに付ける従者についてだが……」 「っ!」 「……嫌なら、付けない。しかし、ここの生活に慣れるまでは遠くでもいいから、見守らせてくれないか」  従者はノアリスにとって恐怖の対象だった。  守ってくれるはずの彼らは、兄に襲われた時も、塔に閉じ込められた時も、卵を産まされた時だって、いつもそうではなかった。  精を注がれる時は体を押さえられ、動けないようにするのも彼らの役目で、産まれた卵を黙って持っていくのも、彼ら。 「わ、たしは……」 「……良い。無理を言って悪かった」 「ぁ……」 「大丈夫だ。俺が傍に居よう」  ノアリスの震えが段々と大きくなっていくのを止められなかった。それに気づいたのか、カイゼルはすぐに従者のことはあきらめる。  そしてイリエントに目配せをすれば、彼は静かに頷き、先回りをして、従者を見えない場所に配置するために、カイゼル達からササッと離れていった。    着いた部屋は、広く落ち着いた色合いで整えられていた。  ソファーにそっと降ろされたノアリス。ヴェールが外される。 「ここで、休んでいてくれ。すぐに戻ってくる」 「……」 「横になるか?」 「……いいえ」 「わかった。楽にしていなさい」  カイゼルが部屋を出ていく。  ノアリスは肩の力が抜けるのを感じて、背もたれにもたれかかった。

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