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第34話

 一人になったノアリスは、ぐるっと部屋を見渡した。  あの塔とは違う、明るくて広い部屋。  一人で暮らすには、広すぎる気がする。  どこか落ち着かなくて、ソワソワしてしまう。 「……はぁ」  これから、ここで、どう過ごしていけばいいのだろうか。  初めての土地。頼れる人は元々少ないが、知り合いもいない国。  カイゼルは傍に居てくれると言っていたが、彼は国王陛下であって、お忙しい身だ。  それなのに、自分なんかに縛り付けているのは、良くないのでははないか。 「……従者、か」  自分の傍に彼らを置く方が、カイゼルにとっては負担が少なくなるはず。  ──しかし 「……」  何も映さない目を、体を押えつけてくる手を、思い出すだけで震えてしまう。  無理矢理暴かれる恐怖が脳裏に焼き付いて離れない。 「っふ、ふぅ……は……」  段々と呼吸が荒く、そして震えが大きくなっていく。  そんなとき、扉がノックされた。  返事をできないままでいると「入るぞ」とカイゼルの声が聞こえる。  そうして、部屋に入ってきた彼は、ノアリスの様子を見た途端顔色を変えて駆け寄ってきた。 「どうした。落ち着け」 「ふぅ、……っは、はぁ……」 「一人にして悪かった。嫌なことを思い出したか」 「っ、」  唾液が零れる。  カイゼルの大きな両手が頬に添えられ、じっと目を見つめられる。 「大丈夫だ。思い出したようなことは、ここでは起きない」 「ぅ、あ……」 「失礼」 「っ!」    不意に、頭を抱えるように胸に抱かれる。  そうすれば、カイゼルの穏やかな鼓動が聞こえてきた。  トク、トク、と一定の速度で鳴る音が、ノアリスの呼吸を整えていく。 「っ、はぁ……」 「上手だ」  ジン、と耳が痺れるようなひくい声。  それがあまりにも心地よくて、深く息を吐いた。

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