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第36話

 どうやら、ノアリスはロルフを気に入ったらしい。  不意に漏らした笑みに、カイゼルは安心した。  動物ほど癒しを与える生き物はいない。  純粋な彼らは、愛してくれるものに同じだけの──いや、それ以上の愛を返してくれる。  きちんと躾をしていれば、傷つけることも無い。    従者を怖がったノアリスに、カイゼルが次に考えたのは誰を傍につけておくか、だった。  自分が共に居られる時は必ずそうするが、どうしても離れければならない時がある。  先程席を外した時にイリエントと少し話をして、『人が嫌なら、動物は?』という考えに至り、城で飼っていたラオンを連れてきたのだが──。 「……正解だったな」  ロルフの体に顔を埋めて、そっと丁寧に毛並みをなぞるノアリス。  ロルフも、その優しい手つきに虜になっているのか、尻尾を穏やかに揺らしている。 「体の違和感が取れたら、ロルフを連れて庭の散歩に行ってみるか?」 「!」  顔を上げたノアリスの目に、少しだけ光が戻っている。  カイゼルは言葉にこそ出さないが、それだけでうれしかった。 「回復したらだぞ? ちゃんと治るまでは、ここで過ごしてほしい」 「ん……はい」  カイゼルはノアリスの隣に腰を下ろすと、再びちいさな頭を撫でた。 「何も、不安に思うことは無い。安心して暮らしなさい」 「……」 「俺はここにいる。ロルフも、イリエントも傍にいるから、何があってもすぐに助けよう」 「ぁ……カイゼル、さま」 「少しずつ、取り戻していくぞ」 「……っ、はい」  ノアリスは、緊張から微かに震える手で、カイゼルの手を取った。  カイゼルは驚いたが、大きく反応することはなく、彼の好きなようにさせる。 「ありがとう、ございます」 「……ああ」  ノアリスの瞳に涙が浮かんでいる。  カイゼルは、抱きしめてやりたいのを堪え、静かに返事をすると、触れ合う手を柔く握ったのだった。

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