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第37話

 ノアリスがルイゼンにやって来て数日。  食事は相変わらず果物を中心に少量しか食べられないようではあるが、体の違和感は取れてきたらしく、部屋の中を歩くことも、ロルフとボールを使って遊ぶこともできるようになっていた。  政務の間に、カイゼルはイリエントとノアリスのことについて話をする。 「そろそろお散歩に出かけてもいいのでは? お部屋の中では遊んでいるのでしょう?」 「ボールを投げて、ロルフが取ってくるのを何度か繰り返しているな」 「愛らしいじゃないですか。私も混ぜてほしいので、本日の仕事は終了ということでよろしいですか?」 「いいわけないだろうが。……そろそろ、ノアリスを医者に診せたいんだがな」  カイゼルは悩んでいた。  いくら体調が回復してきたからといって、現在のノアリスの体がどのような状態なのかを把握していない。  栄養が足りていないのは明白だが、しかしそれが軽度なのか重度なのかはわからない。 「嫌がるでしょうね。それだけならばともかく、せっかく時折見せてくださっていた笑顔が消えるのは、私も悲しく思います」 「ああ。だから、どうしたものかと」  相変わらず従者は隠れるようにしてノアリスを見守っている。  それに── 「湯浴みも、嫌がる」 「……体を見られるかもしれないという行為が嫌なのでしょう」 「しかし……」 「不衛生ですからね。いくら外に出ないからといっても、体に支障が出ては元も子もありません」  悩むことは山ほどある。  しかしそれはほとんどノアリスのことで、慎重に身長を重ねて動かねばならない。 「……話をしてみるしかないのでは?」 「……」 「例えば、一人でなら入れるというのなら、そうしてみるとか……」 「まだ危ない」 「……過保護ですねぇ。王子は成人済ですよ?」 「だが、心は壊れてしまっている」  そんな人間を一人にするのは危ない。  ちょっとした油断が悲劇を招きかねない。 「やはり、話をして、お互いの妥協点を探るのが一番では?」 「そう、だな」  カイゼルはもしかすると不安で泣かせてしまうかもしれないと、思いながら、しかしこればかりは……と苦渋の決断で重たい腰を上げた。 「ノアリスの所に行ってくる。何かあればお前を呼ぶから、すぐに来い」 「……陛下を慰める係ですか?」 「バカか。ノアリスをだ」 「わかりましたよ」  イリエントは苦笑し、去っていく王の背中を眺めた。  ノアリスのお陰で、すこし丸くなったなと思いながら。

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