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第40話

「好きにしろ。俺も、好きにする」 「っ、陛下!」 「今日は終いだ」  イリエントの小言をこれ以上聞くと頭が痛くなりそうだ。  カイゼルは執務室から出ると、ググッと体を伸ばし、再びノアリスの元へ向かう。    部屋に入ると、ロルフと遊んで疲れたのか、丸まったロルフを枕のようにしてもたれて眠るノアリスがいて、愛おしさに頬が緩んだ。  そっと掛布を掛けてやる。  ロルフが小さな声で「わふ」と言い、カイゼルの手に顎を乗せる。  傍に居てノアリスを守ってくれているロルフには、何か褒美をやらなければ。 「ん……ロルフ……どうしたの……?」  鳴き声に反応し薄く目を開けたノアリスは、そこにカイゼルが居ることに気がつくと驚いて飛び起きた。 「か、カイゼル、様」 「ああ、すまない。驚かせた」 「いえ……」 「……」  沈黙が走る。  カイゼルはイリエントに言われたことを思い出して、考えているのだ。    ノアリスは卵を生むことができる。  しかし、一般的に卵には命が宿っているはずだ。  しかもその卵は、精を注がれることでできる。  ならば──  そこまで考えて、吐き気がした。  もしも、……もしも。  その卵に命が宿っていたとしたら……?  これまで、ノアリスが産んだ卵が、そうだったら?  あまりの残酷な仕打ちに、カイゼルは一人心を痛める。   「あの、カイゼル様……?」 「……」 「……?」  万能薬は卵から作られている。  その万能薬の為に、命の宿る卵が破壊されているとしたのなら。 「カイゼル様、顔色が……」 「──っ、ああ、大丈夫だ」  そんなことはあってはならない。  しかし、王子に非道なことをしてきた人間たちだ。可能性が完全にないわけではない。 「……明日にでも、ロルフの散歩に出かけてみるか?」 「!」 「一緒に、庭に出よう」  カイゼルは一度考えることをやめ、ノアリスのほんのり嬉しそうに頬を赤らめている姿を見て、心のざわめきを鎮めた。

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