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第45話

◇  痛い、やめて──  声が聞こえた気がして、心拍数が上がる。  体が押さえつけられているようで、動かせない。  メリメリと開かれる痛さに声にならない声を上げ、逃げられない辛さに絶望する。  中に注がれるものの熱さ。  求めてもいない物が腹の中に生まれ、大きくなっていく。  徐々に始まる何とも言い表せない苦痛。  内側から、抉られるような感覚と、ようやく痛みが消えれば、無機質な金属の音。  押さえられたまま腕と中に針を刺され、一日空けば再び精を注がれる。  そんな毎日。  戦が始まり、終わるまで、もしくは体が保つまで、出口の見えない苦痛。 「ん……ぃ、や……いた、いたい、痛い……っ」  ノアリスは目を見開いた。  汗をかいて、息は酷く上がっている。   「くぅん……」  そばに居たロルフが、心配そうにこちらを見て、頭を擦り寄せて来た。  まだ、太陽も登らない真夜中。  視界が滲む。  とめどなく涙が流れ、ノアリスはロルフを抱きしめた。    あの痛みが、記憶から消えてくれない。  怖い。痛い、苦しい。 「ロルフ……」  夢を見るのが怖くなって、あれから眠ることもできなかった。    朝、朝食を持ってきてくれたのはカイゼルではなく、イリエントだった。  久々に見た彼に、少し緊張しながら「おはようございます」と声を掛ける。 「はい。おはようございます。……あまり眠れませんでしたか?」 「……」  気付かれてしまった。  ノアリスは俯いて、掛布を握る。 「いいのですよ。陛下ですが、本日は朝から会議がございまして、そちらが終わり次第お迎えに上がると」 「……そうですか」 「……。今日はラオンのお散歩に出かけるのでしょう? それまで、お休みになられますか?」 「ぁ……いいえ……」  ロルフはベッドからぴょんと降りて、ノアリスはそれを追いかけるようにして、ゆっくりとベッドから降りた。 「朝食はこちらに置いておきますね。いつも通り、召し上がれるだけで構いませんからね」  ノアリスは「はい」と返事をして、テーブルの方に向かった。  しかし、料理を前にして、喉が詰まるような感覚がした。 「ノアリス王子?」 「……後で、食べます」 「……わかりました。私は下がりますね」  どこか訝しげなイリエントが部屋から出ていく。  ノアリスは深く息を吐くと、夢のことを思いだして僅かに手を震わせる。  兄は、そのうち連れ戻すと言っていた。  その時がきたら、私は──  考えるだけで、怖い。  あの痛みを、二度と味わいたくない。 「……」  今はただ、あの、あたたかいカイゼルに会いたいと、そう思った。

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