46 / 91
第46話
会議を終えたカイゼルは、ふぅ……と深く溜息を吐いた。
朝はイリエントにノアリスの食事を運ぶように伝えたが、どんな様子だったのだろうか。
会議に遅れてやってきたイリエントの顔は、特に何も物語っていなかった。
「陛下」
「ああ」
他の貴族らが退室した中、イリエントだけは残り、カイゼルの傍に腰掛けた。
「ノアリス王子の今朝の様子ですが」
「ああ。どうだった」
「……何も仰ることはありませんでしたが、よく眠れなかったようです」
「そうなのか?」
「ええ。食事も、後で食べると」
「……」
昨夜カイゼルが部屋を出てから、誰一人としてノアリスの部屋には入っていない。
それに、もしも誰かが入っていたとしたら、ラオンが吠えるはずだ。
「夢でも見たか……」
「嫌なことを思い出されたのかもしれませんね」
「……今日、庭に出ることを楽しみにしていたが、難しそうか?」
「そこまでは……。それに、楽しみにしていらしたのでしょう? 突然中止は……そちらの方が悲しむのでは?」
確かにそうだと、ひとつ頷く。
「お話しくださるかは別として、直接訊ねるのも良いでしょう」
「……ああ」
「無理に聞き出すのはいけませんが」
「そんなことはしない」
ノアリスを傷つけないよう、慎重に行こう。
静かに立ち上がり、会議室を出て、直接ノアリスのもとへ向かう。
朝食は食べられたのだろうか。
やはり心配は膨れるばかりだ。
部屋の前についたが、すぐに扉を開けることはしなかった。
何かあっても、焦って近づくのはダメだ。
怖がらせて、距離が離れてしまうのは、いただけない。
一度息を吐く。
そうして三度ノックし、小さな返事が聞こえて扉を開けた。
「おはよう、ノアリス」
「お、おはよう、ございます」
返事はくれたが、目の下にクマができている。
置かれている食事は手をつけたのか、そうでは無いのか、一食分がまるまる置かれている気もしなくはない。
「朝は、食べれたか?」
「……いちごを、少し」
「それはよかった。もう腹は膨れてしまったか?」
「……はい。すみません」
昨日の会話より、若干距離を感じる。
カイゼルはしかしそれに気付いていないかのようにノアリスの傍に寄った。
「庭に出るか?」
「! はい」
「……無理はしないでくれると、約束できるか?」
「わ、わかりました。無理は、致しません」
「よし。では、行こうか」
ロルフの名前を呼ぶ。
すると床に寝転んでいたロルフがのっそり起き上がり、ノアリスの手に頭を擦り寄せた。
「はは、ノアリスは犬の扱いが上手いのだな。ロルフがこんなにも懐いている」
「ん……」
少し、嬉しそうに口元を弛めたノアリスに、若干の違和感は感じるが、あまり敏感になりすぎるのも良くないのかもしれないと、カイゼルは追求することなく、共に庭に出た。
ともだちにシェアしよう!

