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第82話
ノアリスはそっとカイゼルの上から退くと、再びベッドに腰かけたまま、その寝顔を眺めていた。
──このお方のためなら、なんだってしたい。
自分を救ってくれた、優しい人。
ふと、自身の腹に触れたノアリスは、グッと唇を噛む。
もし、カイゼル様に何かがあったのなら、その時は──。
そう思い至った瞬間、喉の奥がぎゅっと締めつけられた。
卵を産むには、誰かと交わらなければならない。
しかし、それに耐えて産んだ卵でカイゼルを助けられたとして──誰が素直に喜んでくれるのか。
カイゼルにとって、それは裏切りになるかもしれない。
そして、あの痛み。
想像しただけで、体が強張る。
『共に戦う』と言ったくせに、私は……。
ノアリスは拳を握り、俯いた。
何もできない。
それでもせめて、この手で──。
カイゼル様のお心を、少しでも癒したい。
はぁ……と深く息を吐く。
じっと彼を見つめているうちに、もう一度くっつきたいと思えてきて、そっとカイゼルの手に触れた。
そのまま、擦り寄るように隣へと身を横たえる。
不思議と、こうしていれば胸の奥を巣食っていたモヤモヤが、少しずつ溶けていくようだった。
カイゼルの匂いと体温を感じながら、ゆっくりと重くなっていく瞼。
抗うことなく、そっと目を閉じた。
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