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第88話

「戦は、必ず終わる」  不意に落ちたその声音には、揺るぎない芯と、安心を与える穏やかな熱があった。 「誰であろうと……そなたの幸せを奪わせない」 「っ……」 「すべてが終わったら、ノアリスの望む未来を──一緒に歩きたい」  胸の奥がきゅ、と締めつけられる。  思わず顔を上げると、カイゼルは目を細めて、柔らかく微笑んでいた。 「俺はこの手を離さない。……ただ、そなたに嫌われたら話は別だが」 「き、嫌うなどっ、そんな……! 私は……カイゼル様を……お、おし……お慕いしております……!」  震える指先で、おずおずとカイゼルの手に触れる。  その瞬間、カイゼルの喉がわずかに動き、息を呑んだ。 「私を救ってくださった唯一のお方です。……それだけでなく、いつも……私が不安にならないよう、心を寄せてくださる。……そのような貴方様を、嫌いになるはずが……ありません……っ」  いつになく強いノアリスの声に、カイゼルは驚いたように瞬きをした。  そっとノアリスの頬へ手を伸ばし、温かな指先でそっと持ち上げ──触れるだけの口づけを落とす。 「んっ……!」 「……すまない。あまりにも愛しくて」  ノアリスの唇が赤く染まる。  その反応があまりに可愛くて、カイゼルは低く囁いた。 「ノアリス。……もう一度、してもいいか」 「は、はい──」  そうして、返事を最後まで言えないまま。 「──わふっ!」 「わあっ!」  二人が身を寄せ合っているのを見て、ロルフは『じゃれている』と判断したらしい。  後ろ足で立ち上がると、嬉しそうにノアリスへ飛びついた。  その衝撃でノアリスは後ろに倒れ、カイゼルがそんな彼を支えるより先に尻もちを浮く。 「わっ、ん、ロルフ、待って……!」 「ロルフ、離れなさい」  尻尾をこれでもかと振りながら、ロルフはノアリスの顔をぺろぺろ舐めている。  カイゼルは慌てつつもため息をつき、ロルフを引き離した。 「ノアリス、すまない。どこか痛めていないか?」 「だ、大丈夫です。ロルフに飛びつかれて転けるのは……よくあるので」 「よ、よくあるのか……? 本当に痛くないか?」 「はい、問題ありません。……あ、お洋服が少し汚れてしまいましたが……」 「そんなものはどうでもいい。そなたが無事ならそれでいい」  ノアリスが安心したようにロルフへ微笑みを向けたのを見て、カイゼルはようやく胸をなで下ろした。

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