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第100話
ルーヴェンの足が止まる。
「ここは俺の城だ。これ以上、無断で距離を詰めるなら──排除する」
淡々と告げられたその言葉に、背後の騎士たちが息を呑む。
冗談ではない。本気だと、誰もが理解した。
「……排除、とは穏やかではありませんね」
ルーヴェンは小さく肩を竦める。
「同盟国の皇太子に向ける言葉ではないと思いませんか?」
「同盟国の皇太子が、王である俺の伴侶を連れ去ろうとしている」
即座に返された言葉に、空気が張り詰める。
「どちらが先に筋を違えたか、考えるまでもないだろう」
ルーヴェンは、ほんのわずかに目を細めた。
「……やはり、貴方は厄介だ」
ぽつりと零す。しかしそんな言葉にカイゼルは一切揺らがない。
「何度でも言ってやる。ノアリスは俺のものだ。──誰にも渡さない」
その言葉に、ノアリスの肩がびくりと震えた。
兄の歪んだ執着とは違う、温かく痛みなんて一つもない優しい愛情。
「……そうですか」
ルーヴェンは、ふっと息を吐いた。
「では今回は引きましょう」
ここまで粘っていたというのに、意外なほどあっさりとした言葉だった。
「ただし」
けれどその一言で、空気が再び冷える。
「戦は続いている。いずれ、選ばなければならない時が来る」
視線が、ノアリスへと向けられる。
「その時、お前がどちらを選ぶのか――楽しみにしている」
「っ……」
ノアリスは息を飲み、逃げるように俯いた
「行くぞ」
その間にルーヴェンは踵を返し、鎧の音を響かせながら部屋を後にする。
フェルカリアの騎士たちも、それに続いた。
扉が閉まる。重い音が、やけに長く残った。
次の瞬間、ノアリスの体が大きく揺らぐ。
座り込みそうになったのを、今度はカイゼルの腕が抱きとめる。
「……っ、は……」
「ノアリス」
細い体は、まだ震えていた。
呼吸も浅く、顔色が悪い。
「もう大丈夫だ」
低く、優しい声が届き、ノアリスはぎゅっとカイゼルの服を掴んだ。
「……はい……っ」
ようやく、戦いが終わったかのように――その場に静けさが戻った。
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