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第104話

 部屋にやってきた医者は、前にもノアリスを診てくれた人だった。  質問されることにポツポツと答える。 「痛みや苦しさを感じるところはありませんか?」 「い、今は、大丈夫、です」 「わかりました。少し腕に触れても?」 「ぁ……腕……」  細く真っ白な腕をそっと差し出す。  軽く手首に触れられ、ドキリと心臓が嫌な音を立てたが、カイゼルに背中をなでられて落ち着いた。 「今しがた、少し騒動があったと聞きました。そのせいで御心が沈んでしまっているかもしれませんが、お体は無事です。脈も安定しておりますし、大きな異常は見受けられません。ですが今日は温かいお湯に浸かって、筋肉を少し解してあげるのがよろしいかと」 「揉んでやるのがいいのか」 「ええ。きっとお体が緊張して固まってしまった筈です。優しく撫でるだけでも、何もしないよりは効果がありますよ」 「ああ、わかった」  ノアリスは弾かれたようにカイゼルを見上げる。  『揉む』とは、まさか──いいや、まさか。 「も、揉むのは……自分で、こう、脚とか、腕を……?」 「ノアリス。詳しくは後で俺が聞いておくから、そなたは気にしなくていい」 「! で、すが……自分で、すること、ですから」 「……何を言ってる。俺がする」 「!?」  ノアリスの目が大きく見開かれる。  ひそかに懸念していた『もしかしてカイゼルが揉むつもりなのか』という疑問は、どうやらその通りであったらしい。  さも当然かのようなカイゼルの物言いに、ノアリスは咄嗟に首を振った。 「い、いけません……! 陛下が、私なんかに、そんなことをしては……!」 「いいや、こういったことはむしろ、ノアリスにしかしない。俺の伴侶だから」 「っ!」  ノアリスの顔が真っ赤に染まり、助けを求めるように医者をチラリと見たが、医者としては『誰が揉む』なんて問題は特に関係の無いことで。 「それでは、とにかく、今日はゆっくりお過ごしになって下さい」 「ぁ……」 「助かった。ありがとう」  部屋を出ていく医者に、ノアリスはますます困ってしまった。  腰に回された腕の力が少し強くなり、ぐいっと引き寄せられる。 「ぁ、か、カイゼルさま……」 「触れられるのは嫌か?」 「っ……」  近い距離。もう少しで鼻先が触れ合いそう。 「い、いや、などでは、なく」 「ん?」 「一国の、王たる方に……そのようなこと……恐れ多いのです。……自分で、できますから……」 「俺が、したいんだ」 「ぇ……」  僅かに顔を上げれば、鼻先がかすかに触れた。  驚いた二人だけれど、カイゼルはふっと笑いノアリスの丸い額にキスを落とす。 「させてくれないか? そのまま、また、共に眠れたら嬉しい」 「っ!」  手をとられ、そっと優しく握られる。  ノアリスは先程までの喧騒がまるで無かったかのように胸が温かくなるのを感じ、カイゼルの胸に顔を隠すようにして頷いたのだった。

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