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第105話
その後、再び部屋に入ってきたイリエントとブラッドリー。
再び話し合いをすると、ブラッドリーとロルフだけをノアリスのもとに残し、カイゼルとイリエントは一度話を纏めようと、出ていってしまった。
少しするとノアリスの食事が運ばれてきて、ノアリスの好きなパンと一緒に、サラダ、スープ、そして香ばしい香りのする肉料理に、豪華なデザートがテーブルに並べられた。
「ぁ、こ、こんなに……」
「今日は特段豪勢にするようにコンラッドに伝えておきました」
「た、食べられる、かな……こんなに……」
「無理にとは言いませんが、ひと口だけでも食べてご覧なさい。料理長の作るものはどれも頬が落ちるほど美味しいですよ」
ブラッドリーはそう言いながら、さりげなく椅子を引いた。
促されるままに腰を下ろすが、並べられた料理を前にして、やはり手が止まる。
どれも美味しそうだけれど、喉がうまく通る気がしない。
「ノアリス様」
静かな声に顔を上げると、ブラッドリーがスプーンを手にしていた。
そこには黄色のスープが。
「少しだけでも」
「ぁ……」
差し出されたそれに、ノアリスは一瞬だけ迷う。
けれど。
「……い、いただきます……」
小さく頷くと、差し出されたスプーンに口を寄せた。
温かいスープが舌に触れる。
その瞬間、張り詰めていたものが、ふっと緩んだ。
「……おいしい……」
ぽつりと零れた言葉に、ブラッドリーはほんの僅かに目を細めた。
「それは何よりです。お気に召したのならまた作るように伝えておきましょう」
「ぁ……ありがとう、ございます」
「いえ。さあさあ、肉も美味しそうですよ。冷めてもきっと柔らかく美味でしょうが、どうか温かいうちに」
ノアリスは少しだけ躊躇ったあと、ひとつ頷き、今度は自分の手でフォークを手に取る。
ノアリスのためにか、既に小さく切られている肉を刺して、一口、カプリと食べてみた。
「──!」
思わず息を呑む。
それから遅れて、じわりと目に涙が浮かんだ。
柔らかくて、さっぱりとした優しい味。重たさはなく、今まで食べたどの肉料理よりも美味しく感じられた。
普段から食が細く、果物を中心にパンやサラダだけしか食べてこなかったノアリスは、あまりにも感動した。
「ノアリス様、お口に合いませんか」
「ぁ……違い、ます……とても、美味しくて……」
その言葉に、ブラッドリーはほんのわずかに肩の力を抜いた。
いい香りがするのか、それともノアリスの感情が伝わったのか、ロルフがノアリスの足元で小さく尾を振っている。
「ロルフも、あとで美味しい肉が待ってるぞ」
「わふっ!」
ブラッドリーの言葉に『やったあ!』とでも言うように、立ち上がると、部屋の中をルンルンと跳ねるように歩き回るロルフに、ノアリスは小さく笑い、また足元に戻ってきた愛しい子を優しく撫でるのだった。
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