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第107話
夜、湯浴みをしようとカイゼルに連れられた湯殿で、いつもの通り肌衣を身につけたまま湯船に浸かる。
カイゼルは優しくノアリスの髪を洗い終えると、うっとりしているところを、彼の許可を得てから手に触れた。
「医者が言っていたからな。腕を少し揉むぞ」
「ぁ……」
「痛かったら教えてくれ。我慢はしないように」
「はい……」
細く今にも折れてしまいそうな腕を衣の上から優しく揉んでいく。
ふわふわと、まるで花を撫でるように。
しかしノアリスにはそれが丁度いい力加減らしい。
「ノアリスはどこもかしこも柔らかいな。変に力を込めてしまっては、すぐに怪我をさせてしまいそうだ」
「そこまで弱くはありません……きっと」
「ロルフに飛びつかれて転けることもあると聞いた時は、肝が冷えたぞ」
「……ふふ」
「!」
さすがに転げたくらいで怪我はしない。ノアリスはそう思って小さく笑った。それもカイゼルがあまりに真剣な表情で言うものだから。
「そこまで、柔くは……。そろそろ、ロルフに飛びつかれても、転けないようには、なりたいですが……」
「そうだな。あとは何かがあった時のために、走れるようになった方がいいとは思う」
「走る、ですか……? ……転ばずに、走れるでしょうか……」
しかし走っている姿を、ノアリスはもちろん、口にしたカイゼルも想像がつかなかった。
「……いいと思うだけで、もしも仮にそんな事があったなら、必ず俺かブラッドリーがノアリスを抱いて走るさ」
「カイゼル様か、ブラッドリーが……?」
「ああ。イリエントはああ見えて剣も振るうが……あいつは頭を使わせた方がいい」
ひとりでに頷いたカイゼルに、ノアリスも納得をする。
腕を揉んでいたカイゼルだったが、次第にノアリスの瞼が重くなり、肩の力が抜けていくのを見て、そろそろ湯殿を出ることにした。
新しい服に着替え、髪を整える。
支度を終えると、カイゼルに名前を呼ばれたノアリスは、振り返って彼を見上げる。
カイゼルは一瞬だけ言葉を選ぶように視線を落とし、それから、静かに口を開いた。
「──このまま、俺の部屋に来てくれないか」
「!」
共に眠れたら嬉しい、そう言っていたカイゼルに真正面から問われ、ノアリスは少し戸惑いながらも頷いた。
恐らく、だけれど、色々なことがあった今日は、胸がざわついて眠れないかもしれない。
「そなたが深く眠れるように、傍にいさせてほしい」
「ぁ……」
優しいエメラルドグリーンの瞳が細められる。
ノアリスは導かれるように頷いて、そのままカイゼルに手を取られ、静かな廊下を導かれるままに歩いた。
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