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第110話
柔らかな光が、薄く閉じた瞼の奥に差し込む。
ゆっくりと意識が浮かび上がり、ノアリスは小さく息を吐いた。
「……ん……」
なんだか、温かい。
頬を寄せている先から、規則正しい鼓動が伝わってくる。昨夜、眠る前に聞いていた音と同じだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
はっとして目を開ける。
すぐ目の前にあったのは、穏やかに眠るカイゼルの顔だ。
「……ぁ」
思わず声にならない声が零れる。
腕の中に、すっぽりと収められている。逃げようと思えば逃げられるはずなのに、不思議と体は動かなかった。
昨夜のことが、ゆっくりと蘇る。
優しく触れられたことも、抱きしめられたことも、そして——キスの感触も。
「……っ」
じわりと頬が熱を帯びる。
あまり思い出さないようにしようと、小さく身じろぎしたその時。
「──おはよう」
「っ!」
甘く掠れた低い声。すぐ近くから聞こえてきたそれに、ノアリスの肩がピクりと跳ねる。
見上げればエメラルドグリーンと目が合った。
「ぉ、はよ……ございます……」
「……よく眠れたか?」
その言葉と一緒に、カイゼルの大きな手がノアリスの頭を撫でる。
たったそれだけなのに、どこかくすぐったくて、ノアリスはそっと目を逸らした。
「は、い……とても」
「よかった」
昨日、カイゼル直々に揉んでくれたおかげが、手足がふんわりと軽くなっている気がする。
それを伝えると、彼は満足そうに微笑み、ひとつ頷いた。
「また揉んでやろう。今度は背中も、肩も。緊張すると凝ってしまうから」
「ぁ、だ、大丈夫、です……」
「いいや、させてくれ」
カイゼルの腕の力が強くなり、より体が密着する。まるで、まだ離すつもりはないというように。
「か、カイゼルさま……」
「もう少し、このままで……。コンラッドが起こしに来るだろうから」
穏やかな声音に逆らえず、ノアリスは小さく頷く。
胸に耳を当てると、変わらない鼓動が心地よく響いた。
昨日よりも少しだけ近くなった距離に、くすぐったさと、ほんの少しの嬉しさを感じながら、ノアリスは再び目を閉じた。
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