110 / 120

第110話

 柔らかな光が、薄く閉じた瞼の奥に差し込む。  ゆっくりと意識が浮かび上がり、ノアリスは小さく息を吐いた。 「……ん……」  なんだか、温かい。  頬を寄せている先から、規則正しい鼓動が伝わってくる。昨夜、眠る前に聞いていた音と同じだと気づくのに、そう時間はかからなかった。  はっとして目を開ける。  すぐ目の前にあったのは、穏やかに眠るカイゼルの顔だ。 「……ぁ」  思わず声にならない声が零れる。  腕の中に、すっぽりと収められている。逃げようと思えば逃げられるはずなのに、不思議と体は動かなかった。  昨夜のことが、ゆっくりと蘇る。  優しく触れられたことも、抱きしめられたことも、そして——キスの感触も。 「……っ」  じわりと頬が熱を帯びる。  あまり思い出さないようにしようと、小さく身じろぎしたその時。 「──おはよう」 「っ!」  甘く掠れた低い声。すぐ近くから聞こえてきたそれに、ノアリスの肩がピクりと跳ねる。  見上げればエメラルドグリーンと目が合った。 「ぉ、はよ……ございます……」 「……よく眠れたか?」  その言葉と一緒に、カイゼルの大きな手がノアリスの頭を撫でる。  たったそれだけなのに、どこかくすぐったくて、ノアリスはそっと目を逸らした。 「は、い……とても」 「よかった」  昨日、カイゼル直々に揉んでくれたおかげが、手足がふんわりと軽くなっている気がする。  それを伝えると、彼は満足そうに微笑み、ひとつ頷いた。 「また揉んでやろう。今度は背中も、肩も。緊張すると凝ってしまうから」 「ぁ、だ、大丈夫、です……」 「いいや、させてくれ」  カイゼルの腕の力が強くなり、より体が密着する。まるで、まだ離すつもりはないというように。 「か、カイゼルさま……」 「もう少し、このままで……。コンラッドが起こしに来るだろうから」  穏やかな声音に逆らえず、ノアリスは小さく頷く。  胸に耳を当てると、変わらない鼓動が心地よく響いた。  昨日よりも少しだけ近くなった距離に、くすぐったさと、ほんの少しの嬉しさを感じながら、ノアリスは再び目を閉じた。

ともだちにシェアしよう!