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第111話

 それからどのくらい経ったか、カイゼルが身動いだのを感じて、ノアリスの意識が浮上する。 「おはようございます、陛下」 「ああ、おはよう」  コンラッドとカイゼルの会話をうっすらと聞きながら、しかしこの微睡みが気持ちよくて目を開けられない。  胸に当てた頬から伝わる温もりが、まだ離れたくないと訴えてくるようで。 「ノアリス様も起こされますか?」 「……いや。安心して眠っている。起こすのは可哀想だ」  そっと頭を撫でられ、その心地良さに意識が一つ深いところに沈んでいく。  ──優しい。  ぼんやりと、そう思う。 「朝食はいかがしましょう」 「……ノアリスと共に」 「わかりました」  頬に触れる大きな手。ついビクッと体が反応して、ゆっくりと目を開けるノアリスに、カイゼルは苦笑した。 「すまない。起こしてしまったか」 「……カイゼルさま」 「朝食は食べれそうか? 昨夜はいつもより食べていただろう。腹は減っているか?」 「……」  スラスラと話しかけてくるカイゼルの言葉を、ノアリスは不思議そうに聞いた。  あんまり頭に入ってこなくて、何も返事出来ずに、頬に触れる手に自らの手を重ねる。 「? ノアリス?」 「……あたたかい、です……」  問いかけに対する答えは何一つなかったが、カイゼルは柔く微笑むと「そうか」とだけ言って、額にキスをした。 「いつも通りの朝食を用意させる。食べられるだけで構わないからな」 「ん……はい」 「起きられるか? 支度をしよう」  体を起こしたノアリスは、ふんわりと欠伸をすると、促されるままベッドを抜けた。  コンラッドに支度を手伝ってもらい、綺麗に髪を結ってもらうと、それが嬉しくて鏡を見ては目尻を下げる。 「コンラッド、ありがとう、ございます」 「いいえ。とてもお似合いですよ」  そんな二人を様子を見ていたカイゼルは、和やかな雰囲気に自然と口角を上げる。 「少しお待ちください。すぐに朝食をお持ちします」  そして一度コンラッドが下がっていき、カイゼルとノアリスは二人きりになった。  相変わらず鏡をみて嬉しそうなノアリス。そんな彼が可愛くて後ろから抱きしめ、そっと頬にキスをすると、鏡越しに顔を赤くするその姿が愛らしい。 「か、カイゼル、様、あの……っ」 「すまない。あまりにも可愛くてだな」 「ぁ……カイゼル様も、お綺麗です……!」 「ありがとう」  真っ白な首筋にも唇を落とし、結われたことで現れた耳にも触れると、ノアリスはビクッと震え「ふぁ……」と声を漏らす。 「耳は弱いか」 「んっ、く、くすぐっ、たい……」  体を離せば、振り返ったノアリスが涙目で見上げてくるので、カイゼルは少し反省をして片膝を着き、彼の細い手を取ってその甲にキスをした。  その手を引き寄せたまま、じっとノアリスを見つめる。  そして── 「愛してる」 「っ!?」  唐突も過ぎる告白に、ノアリスはギョッとすると顔を真っ赤にしたまま、しかし隠れることもできずに俯く。 「俺にそう言われるのは負担になるだろうか」 「まさか……っ、そのようなこと……!」 「……では、少しでも嬉しいと思ってくれるか」 「っ、……ん、は、はい。嬉しい、です……」  胸の内が温かい。  上手く言葉で伝えたいのに、この感情をなんと言えばいいのかわからない。  ──だから。  ノアリスは一歩近づくと、自らカイゼルの唇にそっと唇を重ねた。  今はそれが精一杯で恥ずかしかったけれど、カイゼルは少し目を見張ったあと、あまりの愛しさにその身体を強く抱きしめたのだった。

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