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第112話
しかし、そんな優しい朝のひとときは突如終わる。
「──失礼しますよ」
「っ!」
「……おい、イリエント……貴様……」
飄々とした顔のイリエントが部屋に入ってきて、ノアリスは跳ねるように驚き、咄嗟にカイゼルの首に腕を回して抱きついた。
カイゼルはノアリスを離すことなく立ち上がると、イリエントに鋭い目を向ける。
「罷免してやろうか」
「あら、そんなことをして困るのは陛下では?」
「……クソ」
静かにしていたノアリスだけれど、はっとして、自分がカイゼルにしがみついていることに気がついた。
「か、カイゼル様、すみません……、お、おろして、ください……」
「……嫌だ」
カイゼルはノアリスを離すどころか、むしろ抱き寄せる腕に力を込める。
あわあわと困ったノアリスは、ふとイリエントと目が合って──
「……随分と仲睦まじいことで」
「〜っ!」
今度こそ恥ずかしさからカイゼルの肩に顔を埋め、「恥ずかしいです……」と小さな声で訴えかけた。
渋々ノアリスを降ろしたカイゼルは、「コンラッド!」と少し苛立ちながら彼を呼び、現れた彼に「なぜ通した」と言いながらイリエントを指さす。
「申し訳ありません。本日の会議について、お話があると……」
「チッ……」
「短気は損気ですよ、陛下」
「うるさいぞ」
軽口を叩くイリエントに苛立ちを隠さないカイゼル。ノアリスはどうしたらいいのかわからず、一先ずカイゼルの後ろに隠れるように立って、クイクイと服を引っ張ってみる。
「ん、どうした、ノアリス」
「ぁ、あの……私は、邪魔になりますか……? それならば、部屋に、戻ります」
「邪魔じゃない。邪魔なのはイリエントだ」
「ぇ、で、でも、会議の、お話、だと」
「俺が何よりも最優先したいのは、間違いなくそなたのことだ。会議ではない」
「っ……」
言葉の重さに、胸がきゅっと締め付けられる。
しかし二人の隣で宰相は大きな溜め息を吐いた。
「そんなことでは国が傾きます。朝食を取りながらで構いませんから、話を聞いてください」
「……」
「陛下、わかっていらっしゃるでしょう」
「……はぁ……。わかった」
そう言ってから、ほんの一瞬だけノアリスへと視線を向ける。
その視線を受けたノアリスは、自分はまだ、ここにいていいのだろうかと、そんな迷いを抱えながらも、そっとその場に留まった。
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