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第113話
用意された朝食。
ノアリスは静かにパンを食べながら、聞こえてくる話に耳を傾ける。
「現在ブラッドリーが策を練っております。後ほど内容をご確認ください。戦場に指示を飛ばすにあたり、ある程度の増援は必要かと思われますが、そちらの選定も」
「……わかった」
短く返しながらも、その手は自然とノアリスの方へと伸びていた。
隣でモキュモキュとパンを食べる彼。
手に着いた粉砂糖を拭ってやり、これまた口の端についた砂糖もそっとナプキンで拭いてやる。
ノアリスは子供ではないのに、まるで子供のように粗相をしてしまう自分が恥ずかしいが、それを優しい目で見つめてくるカイゼルが温かくて、心がホッとしていた。
しかし、会話の邪魔になっていないだろうかと、ちらりと視線を向ける。
けれどカイゼルは気にした様子もなく、変わらず優しく手を伸ばしてくる。
そんな二人の様子を、イリエントは一瞬だけ視線を流してから、何事もなかったかのように話を続けた。
「陛下に頼まれていたことも調べました。後ほど……会議の前にお時間をください」
「……例の件か」
カイゼルの表情が一瞬にして険しくなり、ノアリスは少し不安になり視線を逸らす。自分が踏み込んではいけない話なのだと、ぼんやりと理解した。
「はい。二人だけでお願いしたいです」
「わかった」
「──さて。では、私は一度戻ります。陛下、後ほど」
そう言いながら、去り際にもう一度だけノアリスへと視線を向けた。
「ああ」
カイゼルは短く返したあと、ほんのわずかに息を吐く。
すこしの沈黙。ノアリスはチラッとカイゼルを見た。何かあるのか、それとも何かがあったあとなのか、わからないけれど、イリエントのあの意味深な視線も相まって不安が募っていく。
それに気がついたカイゼルは、柔らかく微笑むとノアリスの頬を優しく撫でた。
「大丈夫だ。何も無い」
「……はい」
優しく撫でられるたびに、その不安は薄れていく。
けれど完全には消えず、胸の奥に小さく残ったまま。
「さあ、フルーツもあるぞ、食べよう」
勧められたそれを、ノアリスは頷いてゆっくりと食べた。
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