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第115話

 部屋に戻っていたノアリスは、朝早くから早速「遊びたい」とアピールしてくるロルフと共に外に出ることにした。  カイゼルから貰った帽子を被り、走るロルフを追いかけるように少し急ぎ足で廊下を歩く。  ある時ロルフがピタッと止まり、とある部屋の前で尻尾を振った。前に立っていた見張りは戸惑いつつも、そばにいたのがノアリスだと分かると特に警戒することもしない。 「ぁ、ろ、ロルフ、行こう……?」  声をかけるがロルフは動こうとしない。  中からは少し話し声が聞こえてきて、『卵』という単語が聞こえてきた時、ハッと息を飲んだ。  そして── 「──世継ぎの可能性が」 「黙れっ!!」  カイゼルの怒鳴り声に肩を竦ませる。   「ノアリスに、そんなこと──」 「……傷を抉るようなこと……」  続けて聞こえてくる声に、指先が震えた。  見張りが戸惑う中、ノアリスはロルフの背を軽く撫でると、フラフラ行く宛てを失った子供のように廊下を進み、そうして庭に出る。  刺すような日差しに肌が焼かれようとも、何も思わなかった。  ノアリスとて馬鹿では無い。  聞こえてきた全ての単語を合わせて出てきた答えに、叫び出したくなる。  ロルフは何も知らない様子で尻尾を振り、ノアリスの袖を軽く引いた。  しかしノアリスは動けなかった。  息が浅い。  視界が、少しだけ揺れる。  ──卵。  ──世継ぎ。  そんなはずはない、と。  思いたかった。  けれど── 「──子供が、産める……」  酷く喉が渇く。  緑の中に体を倒して、せっかく貰った帽子もコロンと外れ落ちた。   「くぅ〜ん」  ロルフは再びノアリスの手に鼻先を寄せた。  遊んで、そう言う彼にかまってあげられない。 「……」  沈んでいく。  たった一人、何も見えない暗闇の中に。  こんな残酷な世界を、閉ざしてしまいたかった。

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