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第116話
カイゼルがノアリスの異変に気づいたのは、夜になってからだった。
コンラッドが言うには、朝から姿が見えなくなり捜しまわって、庭で寝転んでいたところを見つけたとか。ロルフもすぐ傍で丸くなっていたらしい。
昼食は果実水しか取らず、日に焼けて少し赤くなった肌のために薬を差し出したが、一切手に取ることはなかったと。
そして──
「ノアリス、食べないのか」
「……はい、すみません」
夜、報告を聞いたカイゼルは一緒に食事をしようとテーブルの席に着いたのだが、ノアリスは一向に食べようとしなかった。
今朝までは食べていたというのに。
「……何かあったのか?」
「……」
「庭で寝転んでいたと聞いたが、怖い夢を見たか?」
「……夢なら、まだ、救われた、のに」
「ノアリス……?」
顔を上げたノアリスと、視線が交わる。
「!」
「私は……何者、なのでしょうか」
「どうしたんだ」
瞳が酷く混濁していた。
何かに怯えているような、全てを諦めているような。
カイゼルは立ち上がり、ノアリスの肩をがしりと掴む。これまでにない焦りが胸を締めつけていた。
「何があった、どうしてそんな……!」
「っ、わ、わたし、は」
「ノアリス、大丈夫だ。落ち着け」
原因がわからない。
何を言えばいいのかも、わからない。
ただ──
ノアリスが、崩れていっている。
しかしカイゼルはただ抱きしめることしかできない。
「……か、カイゼルさま」
「ああ。なんだ。なんでも言ってくれ」
しばらくの沈黙のあと、ノアリスはかすかに唇を動かした。
「……わたしは、もう……疲れました……」
「っ、」
より一層、ノアリスを抱きしめる腕の力を強くする。
ここから居なくなってしまわないように。
ここに繋ぎ止めていられるように。
そうでもしないと──彼が儚く散ってしまいそうで。
「……疲れてしまったんだな。ここまでよく耐えた。……少し休もう。俺の傍で、休んでくれ」
「……」
「何もしなくていい。何も考えなくていい。ただ、ここにいて、俺に抱きしめさせてくれ」
ノアリスの体から力が抜ける。
もたれ掛かるようにして倒れ込んできた小さな体は、以前より健康的になったはずなのに、やはり柔くて脆い。
「……カイゼルさま」
か細い声が、悲しいくらいに震えていた。
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