117 / 119
第117話
ノアリスは結局、カイゼルの腕の中で目を閉じて、そのまま眠ってしまった。
何があったのかは未だわからず、心配そうに見上げてくるロルフに強がって『大丈夫だ』とも言えない。
そっとノアリスを抱き上げた。
部屋を出れば扉の前ではコンラッドが立っていて、少し目を見張りつつも、すぐに状況を察したのか、ブランケットを持ってきてはノアリスの体に掛ける。
「お部屋に?」
「ああ。共に眠る」
「わかりました」
そのままカイゼルの部屋に戻り、大きなベッドに寝かせる。
ロルフもついてきて、ベッドに乗るとノアリスのすぐ傍に丸くなった。
静かに寝息を立てるノアリスを見下ろす。
あれほど取り乱していたとは思えないほど、穏やかな顔だった。
金色の髪を、壊れ物に触れるように優しく梳く。
「……何があったんだ」
本当は根掘り葉掘り聞きたい。
そんなにも壊れそうになった原因を全て取り除いてやりたい。
しかし、まさかそんな無遠慮に詮索することもできない。そんなことをして傷を深めることをしたくない。
カイゼルは少しの間、ロルフにノアリスを任せ、自身は湯浴みに行くことにする。
少し、慌てた心を落ち着かせたかった。
そうして部屋に戻った瞬間、空気がどこか重いことに気づく。ベッドの上で苦しそうに魘されているノアリスを見た。
「ノアリス、大丈夫だ。大丈夫」
「っふ、ぅ……や、……ぁ……」
咄嗟に抱き寄せ、逃がさないように背中を撫でる。
薄く目を開けたノアリスが、怯えたように言葉を繰り返した。
「ゃ、だ……卵、いらな、い……こ、わい……こども、や、だ……」
「……こども……?」
繋がりかけた思考に、息が詰まる。
「こわ……ぅ、ぁ……やめ……たすけ、て……」
その言葉に、心臓が嫌な音を立てた。
まさか、聞いていたのか。
いいや、ノアリスが盗み聞くようなことをするわけがない。そうなると──どういうわけか、聞こえてしまったのだろう。
自分の不注意で、聞かせるべきではないものを聞かせた。
「っ、すまない、すまない……っ」
カイゼルは何度も謝りながら、しかしその細い体を離すことなく、抱きしめたまま長い夜を越える。
何度も魘されるノアリスを宥めるように、安心させるように。
その度に名を呼び、背を撫で、額に触れて。
朝を迎える頃には、ノアリスも落ち着き、カイゼルはホッとしてようやく目を閉じた。
ともだちにシェアしよう!

