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第117話

 ノアリスは結局、カイゼルの腕の中で目を閉じて、そのまま眠ってしまった。  何があったのかは未だわからず、心配そうに見上げてくるロルフに強がって『大丈夫だ』とも言えない。  そっとノアリスを抱き上げた。  部屋を出れば扉の前ではコンラッドが立っていて、少し目を見張りつつも、すぐに状況を察したのか、ブランケットを持ってきてはノアリスの体に掛ける。 「お部屋に?」 「ああ。共に眠る」 「わかりました」  そのままカイゼルの部屋に戻り、大きなベッドに寝かせる。  ロルフもついてきて、ベッドに乗るとノアリスのすぐ傍に丸くなった。  静かに寝息を立てるノアリスを見下ろす。  あれほど取り乱していたとは思えないほど、穏やかな顔だった。  金色の髪を、壊れ物に触れるように優しく梳く。 「……何があったんだ」  本当は根掘り葉掘り聞きたい。  そんなにも壊れそうになった原因を全て取り除いてやりたい。  しかし、まさかそんな無遠慮に詮索することもできない。そんなことをして傷を深めることをしたくない。  カイゼルは少しの間、ロルフにノアリスを任せ、自身は湯浴みに行くことにする。  少し、慌てた心を落ち着かせたかった。  そうして部屋に戻った瞬間、空気がどこか重いことに気づく。ベッドの上で苦しそうに魘されているノアリスを見た。 「ノアリス、大丈夫だ。大丈夫」 「っふ、ぅ……や、……ぁ……」  咄嗟に抱き寄せ、逃がさないように背中を撫でる。  薄く目を開けたノアリスが、怯えたように言葉を繰り返した。 「ゃ、だ……卵、いらな、い……こ、わい……こども、や、だ……」 「……こども……?」  繋がりかけた思考に、息が詰まる。 「こわ……ぅ、ぁ……やめ……たすけ、て……」  その言葉に、心臓が嫌な音を立てた。  まさか、聞いていたのか。  いいや、ノアリスが盗み聞くようなことをするわけがない。そうなると──どういうわけか、聞こえてしまったのだろう。  自分の不注意で、聞かせるべきではないものを聞かせた。 「っ、すまない、すまない……っ」  カイゼルは何度も謝りながら、しかしその細い体を離すことなく、抱きしめたまま長い夜を越える。  何度も魘されるノアリスを宥めるように、安心させるように。  その度に名を呼び、背を撫で、額に触れて。  朝を迎える頃には、ノアリスも落ち着き、カイゼルはホッとしてようやく目を閉じた。  

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