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第119話

 静かに朝食を食べた。  食欲はなかったけれど、せめてフルーツだけでも、と差し出してくれたカイゼルの表情が、とても心配そうだったから。    ノアリスはちょっとずつ甘くて艶々の桃を食べて、そうしてお腹を満たした。  甘いはずなのに、どこか味は遠く感じられたけれど。  ふと視線を感じて顔を上げれば、エメラルドグリーンと視線が交わる。  安心したように目を細めた彼に、ノアリスは小さく頷くと、もう一口だけ桃を口に運んだ。  言葉はほとんどなかった。   沈黙はどこか重たくて、息をするのも少しだけ苦しかった。  それでも逃げようとは思わなかった。  いつか向き合わなければならない現実と、今、自分が向き合う番になっただけだから。    食事を終えると、カイゼルとノアリスは向き合うようにして座った。  話す言葉を探し、整理しているのか、カイゼルは中々口を開かない。  ロルフが大きな欠伸をして、ノアリスの足元にコロンと寝転がった。 「──まずは……何から話せばいいか……」  そうしてポツリポツリと言葉を落としていく。 「そなたの、卵のことについて、イリエントと調べていた。……まず、黙ってそのような事をしていたことを、謝りたい。すまなかった」 「ぁ、そ、それは……それは、大丈夫、です……」  それはきっとノアリスの身体を思ってのことだと、わかっている。 「私のことを、思ってのこと……そう、でしょう……?」 「! もちろん、そうではあるが……卵のことを考えているうちに、ある可能性に行き着いて、それが──……」 「……命を、宿している可能性が、あると……?」 「……そうだ」  心臓が嫌に動く。  じっとしていられない。  視線を彷徨わせ、呼吸が浅くなる。 「ノアリス……」 「っ、すみ、ません……」  カイゼルは何とも声をかけることができなかった。『大丈夫』とは違うし、『落ち着け』も違う。  当事者なら、落ち着くことなんて到底できるはずがないし、何も大丈夫ではないから。  それでもノアリスは努めてゆっくり深く息を吐くと、カイゼルを見て、震える唇で、それでも僅かに口角を上げた。 「……続きを」 「っ……」  逃げずに受け止めようとするその姿が、あまりにも健気で悲しい。 「卵に命が宿るのは稀だ。これまで……一度しか見たことがないと、言っていたらしい」 「……その、卵は……?」 「行方は分からない」  カイゼルは静かに言葉を紡いでいく。  その卵が孵ったとして、それがノアリスとルーヴェンの血が交わったとなると──。  カイゼルは考えて、やはり途中で首を振った。 「──昨日、恐らく、そなたは世継ぎの話も聞いていたのだろう」 「……」 「強要したりしない。ただ、俺は……王でもある。この国を繋いでいく責務がある」  一瞬、言葉が喉に引っかかった。  ノアリスはゆっくりと視線を下げる。 「……妾妃様と……」 「……そうなるだろう」  それを聞いたノアリスは、どうしてか分からないほど悔しくて、胸の奥が締めつけられて、気付けば俯いていた。

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