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第120話
「……カイゼル様は、私を妻として、ここに……ルイゼンに連れてきてくださいました」
「ああ」
「……ですが……子も成せない、ただの男性でしかない私を、妻に置いておくのは……カイゼル様にとって、負担になるはずです」
言いながら、涙が溢れた。
不気味な自分を『人』として見てくれた、優しい人。
きっと看病だって、今いただいている恩恵だって、とてつもなく手間のかかる大変なことだっただろうに、嫌な顔ひとつせずに接してくれた人。
言葉が詰まる。
それでも、絞り出す。
「……私は……ここに居ては、いけない存在です」
「な、にを……」
「私が、今ここで、『それならば貴方様との子を産む』と、決断ができたのなら、よかった……! でも、私には……どうしても、できません……!」
重たい沈黙が流れる。
震える体。止まらない涙。
恐怖と、悲しみが綯い交ぜになっている。
そんなノアリスの言葉に、カイゼルはほんの一瞬だけ、息を詰める。
「……それを決めるのは、そなたではない」
低く響いた声に、ノアリスは奥歯を噛んだ。
ここで切り捨ててくれたなら、諦めがついたのに。
いつも慈しむように髪を撫でてくれるこの優しい人は、それを許してくれない。
漏れそうになる声を、手で口を覆って堪える。
「王は、俺だ。俺が決める。そなたとの子が望めないからといって、それがそなたを手離す理由にはならない。もしも他がとやかく言ってきたとしても、それは俺が全て払い除けてやる」
「っ、カイゼル様……」
「何の問題もない。勝手に自分を諦めるな」
俯くノアリスの傍に寄ったカイゼルは、その身体を強く抱きしめる。
小さく震える彼を、どうしても離せなかった。
「っ、でも……」
「……ああ、わかっている。怖いのは、重々理解している。だから、守らせてくれ」
「うっ……ぁ……」
「そなたとの子が欲しくて連れ帰ったわけじゃない。ただ、そなたが──ノアリスが欲しかった。……離してやれなくて、すまない」
ノアリスはカイゼルの胸に縋るようにして、声を上げて泣いた。
何も出来ない、何にもなれない自分を。
それでも離してくれない、優しくて酷い人を。
──いつの間にか、こんなにも愛していたのだと、理解して。
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