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第129話
支度を調えたカイゼルに再び抱き運ばれたのは、ノアリスの部屋。
部屋の主を中で今か今かと待ちわびていたのは、ロルフだ。
ベッドに降ろされたノアリスの横に飛び乗ってきたロルフは、嬉しそうに尻尾を振っている。
「わっ、ロルフ……っん! ふふ、ごめんね、ひとりが、寂しかったね」
ノアリスの顔をペロペロと舐めまくり、体を支えきれずに後ろに倒れた彼を、また追いかけていく。
カイゼルは「ロルフ、程々に」と一言言うが、まるで聞こえていないようだ。
「ノアリス、しばらくはここに。きっとまだ動けないだろうし。……もしもなにか異変があれば、部屋の前には兵士を置いておくから、彼らを呼んでくれるか?」
「……ぁ、」
ノアリスの胸の中に寂しさが生まれていく。
「行って、しまわれるの、ですか……?」
「! 寂しいのか」
「……す、すみません。こんなこと……貴方様は王であるのに、私なんぞが引き止めるだなんて……」
モジモジとした彼に、カイゼルは小さく笑うと、真白な手を優しく取って、そこに口付けた。
「職務が終われば直ぐに戻る。安心しなさい」
「ぁ……」
「さあ、兵士については、どうしようか。難しいのなら、ここにコンラッドと同じ側仕えを一人置いておこう。……本当はブラッドリーを呼びたいが、戦の件で彼とも話さなければならない」
難しい選択をいきなり迫られ、ノアリスはギュッとロルフを抱きしめる。
「き、きっと、大丈夫です。何かあれば……ロルフと一緒に、貴方様の元へ向かいます」
「……だが体が本調子ではないだろ」
「ロルフが、いるから」
「わふっ!」
ロルフはカイゼルを見てまるで『安心して!』というかのように、頼もしく目をキラキラさせている。
それを見るともう何も言えなくなったカイゼルは「わかったよ」と返事をして、優しく金色の頭を撫でた。
「念の為に、兵士には伝えておく。大きな物音や、異変があれば俺に伝えるように」
「っ、はい」
「中には勝手に入らせない。ノアリスの許可か、俺の許可を取るように」
「ありがとう、ございます」
まだもう少しだけ、時間がある。
カイゼルはそっとベッドの端に座ると、ノアリスの手を優しく揉んでいた。
その心地良さに、ノアリスはうっとりして目を閉じていく。
「カイゼル様……眠って、しまいそう……」
「良い。疲れただろう。頑張ってくれてありがとう。少し眠りなさい」
「……いくさ」
「うん?」
「……戦、なんぞ……早く、終わればいいのに。そうすれば、私は……カイゼル様と、ロルフと……イリエントに、ブラッドリーも……みんなで、仲良く……何に怯えることもなく、生きられる、のに」
ノアリスと言葉にカイゼルの胸に新たな火が生まれる。
これまで感じてきた火よりも、もっともっと熱く大きな焔だ。
「必ずや終わらせる。そなたを脅かすものを無くすから」
「……」
「そなたの父や、兄のことは、全て、俺に任せなさい」
強い言葉がそう言うと、大きな手がふんわりとノアリスの目元を覆う。
「……はい……」
暗くなった視界。それでも香ってくる愛しい人の匂いに、安心して夢の世界に落ちていった。
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